TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

カミュ『ペスト』

府医ニュース

2020年8月19日 第2937号

 世界を覆う新型コロナ禍の中、フランスのノーベル賞作家カミュの「ペスト」(1947年)がベストセラーになっているそうです。私も遅ればせながら読んでみました。緊急事態宣言下では、いつもと違って通勤電車が空いていて座れたので、読書が捗りました。
 何の予備知識も持っていなかったので、読む前は、人々を襲うペストの凄惨さや、それによってむき出しになる人間の醜さなどが描かれているのだろうと想像して、今の時期に読むと気が滅入るのではと躊躇していました。しかし、それは全く見当違いで、読後はむしろ明るいものが心に残りました。
 当時フランス領であった、北アフリカのアルジェリアの都市オランでペストの大流行が起こり、街全体が封鎖されます。これはフィクションなのですが、そこでの状況は、インターネットと携帯電話がないこと以外は、驚くほど今のコロナ禍の状況に似ています。この理不尽な災厄と闘う主人公の医師リウーとその周辺の人々の行動が描かれていますが、英雄的な人物は登場せず、それぞれが自分にできることをコツコツと行っています。リウーは「ペストと闘う唯一の方法は誠実さで、それは自分の仕事を果たすことだ」と述べています。
 この小説では、ペストは一年弱で潮が引くように終息します。今のコロナ禍がどうなるのかは全く分かりませんが、「災厄のさなかで、人間のなかには軽蔑すべきものより賞讃すべきものの方が多いことを学んだ」というリウーの言葉に励まされる思いがしました。
(瞳)