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府医ニュース

2020年8月5日 第2936号

 ◆南都六宗のひとつ、華厳宗に『事事無礙法界(じじむげほっかい)』という教えがある。「宇宙の万物は互いに妨げあうことなく融合し存在している」という悟りの世界だ。聖武天皇は仏教の鎮護国家思想による国造りを進めたが、その拠り所にしたのが華厳宗である。
 ◆奈良時代、天然痘の大流行や畿内七道地震などで、国は危機的状況に見舞われた。天然痘の猛威は3年に及び、人口の約3割を失ったとされる。聖武天皇は国の安寧を願い、東大寺に華厳経の本尊である廬舎那仏(るしゃなぶつ)を造立した。
 ◆疫病の歴史に習えば、新型コロナも有効な薬やワクチンが開発されない限り、終息までに数年はかかる可能性がある。今、コロナ禍での社会回復を目指して、感染拡大防止と経済活動の両立が模索されているが、互いに妨げあう二律背反に、調和のとれた融合策は見出せそうにない。政府と自治体の足並みも揃わず右往左往の始末である。
 ◆廬舎那仏の左手は宇宙の智慧を、右手は慈悲を表しているという。せめてその左手を、迷える現世に差し伸べてはくれまいか。(誠)