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府医ニュース
2020年6月17日 第2931号
愁ひつつ
岡にのぼれば
花いばら
与謝蕪村
この句を初めて目にしたのはいつだったのか思い出せませんが、強く印象に残り、初夏になると頭に浮かびます。
花茨とは野ばらの花のことで、初夏に白い小さな花をたくさんつけるそうです。華やかなバラの花と違って、清楚な趣の花と言われています。
愁いを抱えて岡の道を上って行き、ふと目を上げると頂上近くに来ていて、眺望が開け、白い可憐な花茨が迎えてくれた。花茨は愁える気持ちに寄り添いつつ、なぐさめてくれる。そんな情景が私には浮かびます。華やかな花ではなく、野ばらだからふさわしいのだと思います。
蕪村の愁いは何だったのか。この句を詠んだ時、蕪村は59歳で、知人の死を悲しんで、という説もあるそうです。しかし、私は具体的な愁いではなく、旅愁とか郷愁とかで用いられるような漠然とした「愁い」のように感じます。
さて、今世界中を覆っている「うれい」は新型コロナです。こちらは「憂い」の方ですが、この先の見えない憂いの中、ひたすら岡を上って行けば花が咲く頂に辿り着けるのでしょうか。
(瞳)