TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

医師の業務について医学部生に講義

府医ニュース

2020年5月27日 第2929号

大阪医大PBL診断学入門コース

 大阪府医師会の茂松茂人会長は、今後の我が国の医療を担う医学部生が、日本の医療制度の歴史を学び、医師の業務についての理解を深められるよう、大阪府内の大学医学部に出向いて講義を行っている。令和2年度も、自身が昭和53年に卒業した大阪医科大学を皮切りに順次特別講義を予定。5月15日午後には、「日本の医療制度と医師の業務」をテーマとして、母校で第3学年PBL(Problem Based Learning)診断学入門コースを受け持った。なお、当日は新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、学生の大学構内への立ち入りが禁止されていたため、講義の模様を録画し、オンラインシステムを用いて配信されることとなった。

医師・医療の質保証に責任を負う体制構築

 茂松会長はまず、明治初年の西洋医学の本格的な導入以来、都市部を中心に開業医が少しずつ増え、地域の開業医が互いの医術の向上などを目的として研究親睦団体を結成したと、医師団体の黎明期の状況を説明。更に、明治39年5月に、医師は医師会を設立できることとして医師会の機能を規定した医師法が成立、また、同年11月に医師会規則が制定されたことにより、郡市区医師会や都道府県医師会が続々と誕生したとの経緯を紹介した上で、医師の学術団体・専門職能団体である医師会の存在意義・目的を解説。「医師自らが国民に対して医師と医療の質保証に責任を負う体制を構築することが必要」とした。
 続いて、医療制度の歴史および医療問題の変遷について説明する中で、日本の医療の特徴として、国民皆保険体制・現物給付・フリーアクセスを提示。先進諸国と比べても医療のコストが安く、平等な医療サービスが提供されており、世界一の長寿国・低い乳児死亡率の実現に貢献しているとした。

保険診療は保険者と保険医療機関の契約

 保険診療の解説にあたっては、「保険診療とは保険者と保険医療機関との間の公法上の契約」であるとし、保険診療のルール(契約の内容)は、「知らなかったは通用しない」と力説。無診察治療・特殊療法・健康診断・濃厚(過剰)診療・特定の保険薬局への誘導――など、保険診療の禁止事項を列挙し、留意するよう呼び掛けた。更に、集団指導・集団的個別指導・個別指導といった保険指導の種類、架空請求・付増請求・振替請求・重複請求といった不正請求の種類についても説明。保険医療機関指定および保険医登録の取り消し事例を紹介し、注意を促した。

社会保障充実により国民の不安を解消

 更に、臨床医としての心がけとして、患者の立場に立った医療・常に社会の動きを把握・医師会活動への積極的参画・セカンドオピニオンに躊躇しない・国民に信頼される医師・医師一人の養成にどれだけの国費が投入されているかを意識――を挙げた。
 加えて、経済低成長時代の中で経済優先の施策が進められ、社会保障費が抑制されている状況下、企業利益剰余金(内部留保)が増大している現状を問題視。そうした情報を国民と共有することの重要性を指摘した。
 また、社会保障の充実により国民不安を解消しなければならないとし、かかりつけ医の定着と活動強化など、社会格差を解消するための医師会の役割を解説。医師・医師会がひとつとなり、国民医療の代弁者として、地域住民とともに国民皆保険制度を守っていくべきと訴えた。

新型コロナ対策 保健所の体制強化を

 その他、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、感染状況、PCR検査実施数、相談センターへの相談件数、病床の逼迫状況、「大阪モデル」の概要などについて解説した。その上で、我が国においてPCR等検査能力が早期に拡充されなかった理由を考察し、帰国者・接触者相談センター機能を担っていた保健所の業務過多や、感染防護具の不足などを指摘。保健所・地方衛生研究所の体制強化ならびに労務負担軽減、感染防護具・検体採取キット・検査キットの確実な調達などが必要だと強調した。