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時の話題 

新型コロナウイルス感染症

府医ニュース

2020年5月20日 第2928号

長期化に伴う心理的影響

 新型コロナウイルス感染症への対応が長期化する中、当初から懸念されていた様々な心理面への影響が報告されている。未知の部分が多く、予防、治療法が確立されていないため、医療・介護関係者でなくとも国民が通常の社会生活を行う上での感染の不安が付きまとう。
 次第に無症状者の存在、PCR検査での陽性率増加、いまだパイロットスタディーの域を出ないが、無症状での抗体保有者などの報告が行われていることなどにより、既に都市部では市中感染症の状態であるとの専門家の意見も見られる。
 ヒト―ヒト感染とされる新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために我が国が行っている対策は、ヒトとの接触機会を極力減らして、オーバーシュートを防ぎながら収束を図るとともに、有効な治療法、ワクチンの開発を急ぎ、一方で自粛要請を行いつつ国民の生活をいかに守るかというものである。
 このような状況下、メンタルヘルスの問題は、医療・介護に携わる職員の問題はもとより、長期休校等に伴う保育・教育の問題、各種事業所の経営の問題、正規・非正規など就業形態を問わず労働者の休業・解雇などによる収入の問題などに関連して多方面にわたる。特に産業医等の産業保健職の関与が望めない職域の事業主および労働者のメンタルヘルス問題は深刻である。
 自粛要請の強化・長期化に伴い、不安・うつ状態、アルコール関連問題、更にはDV等の家庭内の問題など、心理面での影響が顕在化している。
 阪神・淡路大震災の際は、発災数カ月後から体育館などでの避難所生活者の中からアルコール依存症が増加していることが問題となった。感染症を含むいわゆるCBRNE(chemical化学、biological生物、radiological放射線物質、nuclear核、high-yield explosives高性能爆発物)による災害は「特殊災害」と称され、目に見えないだけに人々に与える不安は大きいとされている。
 今回の新型コロナウイルス感染症により、医療・介護従事者やその家族に対する言われなき誹謗中傷が社会問題になっている。また、緊急事態時には、一部の人々においては攻撃性が尖鋭化するとも指摘されている。
 現在、院内・介護施設内感染が各地で発生し、その対策の困難さから地域医療に多大な影響が及んでいる。特に障がい者施設、介護施設、精神科病院などでの感染対策は困難を極める。
 引き続き国民の冷静な対応が必要であるが、そのためには国民が納得できる優先順位、数値目標などを明確とした、安心感を与える国による迅速な施策が求められる。入院中の患者は言うまでもなく、宿泊施設・自宅療養者、家族、更には医療従事者のストレスも多大である。
 これまでの自然災害時の例に漏れず、長期の対応が求められる新型コロナウイルス感染症についても、より十分なメンタルヘルス対策が重要であることは論を俟たない。