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医師・医療関係者のみなさまへ

新春鼎談

茂松会長、横倉義武・日本医師会長、自見はなこ参議院議員が今後の医療界を語る

府医ニュース

2020年1月1日 第2915号

社会保障の持続 可能性を追い求める

 昨年8月に行われた九州医師会連合会の定例委員総会で、本年6月に任期満了を迎える日本医師会の会長選に立候補することを事実上表明され、今後、5選に向けての活動が本格化することとなる横倉義武・日医会長。また、平成28年7月に実施された第24回参議院議員選挙で、医療福祉系の自民党比例候補者でトップとなる21万562票を獲得して当選後、成育基本法の成立などに力を注ぎ、更には、昨年9月に厚生労働大臣政務官に就任された自見はなこ・参議院議員。大阪府医ニュースの新春特集号では、令和となって初めての新年を迎えるにあたり、これからの更なる活躍が期待されるお二人と茂松茂人・大阪府医師会長による鼎談を実施。超高齢社会を迎え、社会保障の給付と負担に関する厳しい議論が予想される今後に向け、意見を伺った。(進行=阪本栄・府医理事)

はじめに

阪本 新年明けましておめでとうございます。私は司会を務めます府医広報担当理事の阪本です。よろしくお願いいたします。はじめに恒例の質問ですが、年末年始の過ごし方をお教えください。
横倉 年末年始には子どもや孫達が帰って来ますので、幅広い年齢の者が集まり、楽しく過ごしております。
茂松 子ども達が親離れしていくと、普段はなかなか家族が揃うことがありませんね。我が家も、年末年始には家族みんなが集まって過ごしております。
自見 私は、年末の3日間は大掃除と決めております。そして、元旦は皇居に伺い、2日は親戚の集まり、3日からはあいさつ回りをしております。
阪本 これも本紙の恒例の質問なのですが、お雑煮について伺います。
横倉 父の出身が北陸の石川県加賀市なのですが、そこの雑煮はシンプルで、もちと昆布が入っているおすましです。
自見 九州の典型的なもので「あごだし」を使い、ごぼう、人参、菜っ葉、ブリが入っています。
茂松 私の実家がおすまし、妻の実家が白味噌ですので、それらを交互にいただいております。

求心力のある日医執行部を作る

阪本 横倉会長は、昨年8月の九州医師会連合会の定例委員総会で、6月に任期満了となる日医会長選への立候補を事実上表明されました。これから、5選に向けての活動が本格化していくことと存じます。医療を取り巻く環境は課題が山積しておりますが、そうした現在の医療を取り巻く情勢をどのように捉え、また、そうした問題にどのように対処されるお考えでしょうか。
横倉 人口構造が変化し、医療提供体制の在り方が変わっていく中で、国民医療を守らねばなりません。そして、そのためには日医の求心力が必要であり、求心力のある執行部を作る必要があると考えています。人口減少・高齢化が進展する中、社会保障の支え手を増やし、健康寿命を伸ばしていくことが重要となります。また、高齢者が社会参加できるような環境づくりを更に進めていくことが大切です。そのためには、かかりつけ医機能を充実していくことが大事であり、会員の理解を得ながら進めていきたいと考えております。
茂松 我々医師会員からすると、横倉会長の指導力に大きな期待を抱いており、それによって超高齢社会を乗り越えていかねばならないと思います。もうひと頑張りしていただきたいと考えておりますし、全国の多くの会員もそのように思っているのではないでしょうか。

成育基本法成立は望外の喜び

阪本 自見議員におかれましては、昨年9月、厚生労働大臣政務官に就任されました。誠におめでとうございます。そこで、厚生労働大臣政務官としての立場を踏まえて、現在の医療を取り巻く情勢をどのように捉えておられるでしょうか。
自見 昨年、地域医療構想の実現に向けて、病床数の削減や機能分化を含めた再編統合についての再検証を求めた公立・公的医療機関等424病院のリストが公表されましたが、ホールパッケージでの議論が今ほど求められている時はない、というのが率直な感想です。医師の働き方改革、医師の養成課程、地域医療構想などを含めて、それらすべてが、切り離しての単体では成り立たないと感じています。ただ、注意しなければならないのが、医療提供体制における国の議論では、医療を提供する側からしか社会を見ていないということです。それに対し、医師会というのは地域医療を地域の側から眺めています。それらの視点の融合を図りながら、2025年、2040年に向けてソフトランディングしていく必要があると考えています。
阪本 これまでのご自身の参議院議員としての活動を振り返ってのご感想などをお聞かせください。
自見 この3年間にいくつかの政策に関わらせていただく機会を得て、新しく法を提示することができたのは非常に幸運なことだと思っております。そして、なによりも「成育基本法」の成立に携わらせていただいたことは望外の喜びであります。また、「母子保健法の一部を改正する法律案」いわゆる産後ケア法案についても1年間かけて議論し、成立に至ったことは大変ありがたいことだと考えております。そのほか、外国人医療の問題に関し、在留外国人への保険適用・適正な対応に1年間関わらせていただきました。社会保障財政が厳しくなっていく中で、我が国の公衆衛生の発展と財政健全化という意味で大きな役割を果たすことができたと考えております。また、私のライフワークは医師のキャリアデザインを私達の手に取り戻すことです。医療行為の整理をして、法制化をして、安心できる医療安全の下で医学部生に臨床実習行為をしていただく、そしてある一定期間、地域医療で社会に貢献するということを目指して進めております。

地域医療は地域で作る

阪本 現在、いわゆる「三位一体」の改革として、地域医療構想、医師偏在対策、医療従事者の働き方改革についての議論が進められており、これまで、医療費抑制を目的とする強引な病床転換や外来医療抑制、開業規制、更には厳しい時間外労働規制による急性期医療への影響などについて懸念されてまいりました。そうした中、昨年9月に、424病院のリストが公表されました。このリストの公表に対しては、これまでにない動揺と不安が、医療界のみならず、国民の方々にも広がっております。このように、国民の視点がなく、医療をサービスと捉えて国の施策が進められる現状について、ご意見をお聞かせください。
横倉 まず、地域医療は地域で作っていくという原則を外さないようにしなければなりません。方向性は国が決めれば良いですが、施策を進めるスピードなどは地域により大きく異なりますので、それに合わせて地域ごとに行う必要があります。人口が減少していけば、当然、入院患者も減少し、その分のベッドが不要になります。そこで、それに合わせてダウンサイジングを計画的に行っていくこととなりますが、国から一律に決められると混乱が生じます。地域の実情に合わせた形で、5年先ぐらいを見据えて行うのが良いのではないでしょうか。20年も先の2040年を見据えて考えることから、軋轢が生じていると思います。先日、人口の少ない地域へ医療の現状を見に行ったのですが、そこの先生方はあまりストレスなく医療を行っているように思いました。地域で顔見知りになり、本当のかかりつけ医として活躍しておられる。そうしたことを見ても、医療の在り方というのは、高度医療を追い求めるばかりでなく、かかりつけ医機能をしっかりと身に付けてもらい、その上で様々な技術を習得することが最も重要だと思います。
阪本 それぞれの地域で、それぞれに必要な医療がありますね。
茂松 地域医療構想では、急性期のベッドを減らして回復期のベッドへ転換していく、また、地域包括ケアを掲げて在宅医療へ誘導していく流れですが、ここに国民の視点がないことが一番の問題だと思います。今後、総人口は減るとはいえ、高齢者の人口増に伴って、急性期医療のニーズもそれほど減るとも考えられません。国民が安心して医療を受けて、社会復帰できる環境づくりが必要ですが、医師偏在対策や医師不足対策を含めて無理やりトップダウンで行っている。そうではなく、地域で必要な医療をしっかりと見定めて、それを伸ばしていくことが重要です。国民が安心・安全に暮らせる社会・環境を作らねばなりません。また、病床を、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つに分けると、ひとつの病床の医療しか提供できないということになります。ひとりの患者さんを急性期から慢性期まで診て、どのように社会復帰していくかを見届けることが医学なのですが、それが欠けています。また、専門医制度については、「国民に分かりやすいものを」と言いながら、逆に分かりにくくなっています。現在の国の施策の進め方は焦り過ぎていますので、もう一度、国民の視点に立って、もっと安心・安全に生活できる環境づくりをすべきです。
阪本 専門医制度は、分かりやすいものにする、また、質の担保をするということでスタートしたはずですが、変わってきています。
横倉 サブスペシャルティ領域の議論ひとつとっても、なかなか国民の理解を得られていないのが実情だと思います。

女性医師の働く環境を整備

自見 女性医療職の問題も重要です。今後、女性医師の割合が4割を占めるということを受け止めた上で、医師養成課程や医療提供体制を考えていかねばなりません。昨年は医学部入試における女性差別の問題が出ました。今までは女性の働く環境を整えるのが難しいということで、そうした問題があったと思うのですが、それは不適切です。女性という性を踏まえて、妊娠可能な時期や、子育てと仕事の両立などの様々な課題を乗り越え、女性医師がしっかり働くことのできる環境整備が必要です。全産業の中で、病院が最も女性が多い職種なのです。よって、今後、女性医師のみならず、病院で働く職種横断的な男女共同参画という活動へとウィングを広げ、すべてのステークホルダーを巻き込み、病院で病児保育や院内保育、院内学童を支えていくことが非常に重要です。そういった役割を、医師会にも大きく期待しています。また、特に地方では、院内デイケアを求める声も多く、病院が生活の一部を抱える、ということが必要だと思います。
横倉 将来的に、ICTやAI、ロボットなどが浸透してくるので、それらを上手に取り込みながら働きやすい環境づくりを進めていくことになるのでしょうね。

医師会の組織強化に努める

阪本 医師会が、国の方針に対抗していくには組織の強化が重要となります。日医では、「医師の団体の在り方検討委員会」を設置して、組織率向上に向けた対策も含め検討しておられ、茂松会長も委員として参画しております。組織の在り方として、医師会に強制加入とするのか、あるいは現状どおり任意の集団でいくのか。人口構成が大きく変化し、医療の提供側も働き方改革や女性医師増加への対応が迫られる中で、医療の在り方も時代とともに移り変わろうとしています。こうした状況にあって医師会の在り方をどう考えるかお聞かせください。
横倉 医師会は医師を代表する団体であります。また、医師は医療界を代表する職種ですので、医師会は医療界を取りまとめていく大きな役割があるのですが、そのためには、地域の医師、特に臨床を行う医師が顔の見える関係づくりを進めていかねばなりません。そして、顔の見える関係を作るには医師会という組織が一番良いので、医師会に所属していただく働きかけを進めていきたいと考えております。また、現在、勤務医の割合が約3分の2となっていますので、勤務医との連携を図らなければ地域医療が成り立たないと思っております。
茂松 「医師の団体の在り方検討委員会」では、医師全員が強制加入する組織を作るのか、これまでどおり任意加入のままで、それを強化して全員加入を目指していくのかが議論の対象になっています。今の時代の流れからすると、強制加入というのは馴染まないと思います。また、強制加入にすると、医師会の活動に制約が生じるという問題があります。医師会は、国民が適切に医療を受けられ、我々が十分な医療を行えるよう、政治の場に訴えることのできる団体でなければなりません。そのためには、任意加入による団体として、組織率を上げることが重要となります。また、診療報酬改定にあたり、中医協で報酬の取り合いが行われていますが、これが一番の問題です。昨年のラグビーワールドカップで、日本チームが「ワンチーム」のスローガンの下で力を発揮したように、医療界も一致団結しなければなりません。いかに適切に診療ができて、それを医療界で共有できるか、そして医師会が他の職種の不満を聞くことができるか。医師会はそうした団体であるべきだと考えており、その方向性で横倉会長が頑張っておられますので、支えていきたいと思っております。
横倉 かつては医師会員になってやっと一人前の医師だと言われておりました。そういう気持ちを持っていただきたいと思います。
自見 政治の側から見ると日医ほど大事な組織はありません。社会保障の要であります。そして、社会保障は国の要ですので、日医は要の中の要の団体です。そして、国民のための医療、国民福祉向上のための医学研究といった、本当に重要な目的をしっかりと打ち出していくことが、一番の組織強化であると思います。もちろん、若い先生方にこぞって参加していただけるような医師会であってほしいとは思いますが、それは何かに迎合するということではなくて、本筋の目的を突き進んでいくことが大事だと考えています。
阪本 現在、令和2年4月の診療報酬改定に向けての議論が大詰めを迎えております。医師の働き方改革やかかりつけ医機能の問題などを含め、診療報酬改定についてのお考えをお聞かせください。
横倉 診療報酬改定にあたっては常に財源をどうするかが問題となります。いつも厳しい意見をいただいているところですが、他の職種の人件費の伸びと同様の伸びが医療界で働く方にも必要だと思います。医療には診療報酬しか財源がない、と言っても過言ではありません。そうすると、物価の伸びと人件費の伸びに応じた改定をしていただかなくてはなりません。また、初診料・再診料などの基本診療料をもっと評価すべきと考えております。何か特殊なことをしたからそれに点数を付ける、ということが最近の改定の傾向になっております。しかし、医師である、そこに医療機関がある、ということへの評価をもっとしていかなければならない。医師が診るということが国民の大きな安心につながっているので、基本診療料が十分でないということを主張していかねばなりません。

新しい時代の始まりを実感

阪本 昨年のラグビーワールドカップでは、日本チームがベスト8初進出という輝かしい成績を残しました。また、今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。最後に、オリ・パラの話題も含めて、令和2年を迎えての明るい話題や展望、また、ご自身の抱負などをお聞かせください。
横倉 新しい天皇・皇后両陛下が初めてのお正月を迎えられました。日本の次の時代が始まることを実感する正月です。日本には、伝統を大切にしながら新しいものを取り入れていくという良さがありますので、そういう時代になることを期待します。また、お互いがお互いを思いやるような令和の時代になればと考えております。
茂松 新しい皇室が我々を見ていてくださる中、みんなで明るい正月を迎えて、良い日本にしていくことが一番重要だと考えております。そして、その初めが、東京オリンピック・パラリンピックですので、力を合わせて成功させねばならないと考えております。
自見 私は即位の礼に参加させていただいたのですが、それまで横殴りの雨だったのが突然、晴れて虹が掛かったというその場に身を置かせていただきました。そこで、新しい時代が幕を開けたということを実感したのですが、新しい天皇・皇后両陛下は水問題や環境問題に関心を持っておられます。それらの問題に対しては、これまでの成長という概念を変えていかねばなりませんので、持続可能性ということについても、皇室の在り方を見せてくださるのではと期待しております。まさに私達は、社会保障において持続可能性を追い求めておりますので、同じ気持ちで頑張っていきたいと思います。
茂松・阪本 本日はありがとうございました。