TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

RCT参加者の特性は患者全体を代表するのか?!

府医ニュース

2019年12月25日 第2914号

 医療現場に登場して早や四半世紀、今やEBMは日常診療ツールとなった。EBMでは「エビデンスレベル」が重要である。最も信頼すべきは「ランダム化比較試験(RCT)」、特に複数のRCTのメタ解析であり、最も信頼度の低いのは〝権威者の意見〟となっている。しかしリアル臨床の場面ではもっと低いレベルもある。〝権威者でも何でもないミミズクの直観〟である。「だから、若手の邪魔はするなって!!」というご意見は肝に銘じたい。
 また臨床研究デザインには様々な種類があり、検証する対象・目的によって使い分ける必要がある。それぞれの特徴を「瓢箪からケースレポート」「石の上にもコホート」「論よりRCT」などと覚えておくと役に立つ。「役に立つわけがないだろう!!」というご批判は聞き流しておく。
 ところでどんなRCTにも〝試験参加者〟が存在する。参加者は「対照群」と「介入群」にランダムに振り分けられるのだが、ここで「はたしてRCT参加者の特性は本当に患者全体を代表しているのか?」という問題が提起される。これに取り組んだのが豪州の研究者を中心とするグループである(JAMA Intern Med 2019 Jul8)。
 著者らが注目したのは「透析患者を対象としたRCT」である。2007~16年に出版されたRCTのうち一定の条件を満たす189編(8万104人)を集積してその特性を、〝仮想母集団〟に設定した「全米透析患者データベース」のそれと比較した。
 その結果明らかになったのは、RCTの参加者は母集団に比べ、年齢が若くて(58.9歳vs61.2歳)男性が多く(58.8%vs55.7%)、冠動脈疾患罹患率が高く(26.7%vs17.7%)、糖尿病と心不全の罹患率が低かった(40.4%vs44.2%、19.9%vs29.8%)。また透析に至った主因をみるとRCT参加者では高血圧が少なく(20.7%vs29.0%)、糸球体腎炎が多かった(25.5%vs9.5%)。100人・年あたりの死亡率はRCT参加者では半分以下であった(8.9人vs18.9人)。RCT参加者と仮想母集団の特性はかなり違っていたのだ。
 RCTの参加者を決める際には当然条件を設定する。誰でもOKだと交絡因子の海で溺れてしまうだろう。しかしそれゆえRCT参加者はある意味〝選ばれし人達〟である可能性が強い。だからRCTをやみくもに信じるのもいかがなものか。〝迷った時のミミズクの直観〟もあながち捨てたものでは……。はいはい、分かっていますよ。若手の邪魔はしませんって……。