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時の話題

人生100年時代

府医ニュース

2019年12月25日 第2914号

問われる社会的共通資本としての医療の在り方

 11月27日、「第4回人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」が開催され、報告書骨子案が提示された。内閣府の調査では、60歳を過ぎても「働きたい」と考えている人が、全体の81.8%、更に65歳を過ぎても「働きたい」と考えている人が50.4%と過半数を占めた。また、高齢労働者の増加とともに労働災害発生率は、男女ともに最小となる25~29歳と比べ、65~69歳では男性では2倍、女性では4.9倍と相対的に高くなっている。
 労働災害の中でも転倒、次いで墜落・転落災害が若年層に比べて高い傾向があり、特に女性でその傾向が顕著である。骨子案では、このような状況を踏まえ、高齢者が安心して安全に働ける環境づくりや、労働災害予防的観点からの労働者の身体的機能向上のための健康づくりなどについて検討を行っている。
 現在、日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進み、平均寿命は徐々に延伸し、100歳以上(センテナリアン)は珍しくなくなった。ある研究では日本などの先進国では平成19年に生まれた子どもの約半数は、将来100歳を超えて生きると推測されている。実際、古希という言葉は今の時代にそぐわなくなってきており、100歳の高齢者も珍しくなくなってきている。
 ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの著書「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」では、教育→仕事→引退という3ステージの人生を生き抜いて60~65歳で引退するシナリオから、更に多様な働き方と生き方を選べる4~5ステージで構成される人生を生きることができるとし、健康寿命の延伸とともに人生設計を見直さなければならない時期に来ていると述べている。
 高齢者の増加とともに支える側の働き手の人口が少なくなっている状況が深刻化し、国は元気な高齢者には支える側に回ってほしいと考えている。このような時代の到来を見据えた経済社会システムを創り上げるための政策のグランドデザインを検討する会議として、29年9月に「人生100年時代構想会議」が設置され、リンダ・グラットン教授も有識者として会議に参画している。
 会議ではすべての人に開かれた教育機会の確保、何歳になっても学び直しができるリカレント教育、これらの課題に対応した高等教育改革、新卒一括採用だけでない企業の人材採用の多元化、多様な形の高齢者雇用、高齢者向け給付が中心となっている社会保障制度の「全世代型社会保障への改革」を中心的に取り扱うテーマとして整理された。今後、人生100年時代を見据えた社会的共通資本としての医療の在り方が問われる。