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時事

糖尿病性腎症重症化予防事業

府医ニュース

2019年12月4日 第2912号

永続的展開への問題解決

 糖尿病性腎症重症化予防事業組織の起源は、増加する糖尿病への対策として、日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の三者で平成17年に日本糖尿病対策推進会議を設立したことにある。その後、複数の団体が参画し、地道な活動が展開されていた。政策レベルでは、27年に「経済財政運営と改革の基本方針2015」で、生活習慣病全般の重症化予防の取り組みの促進が政府から提示された。同年、経済団体・医療団体・保険者などの民間組織や自治体が参加する日本健康会議で採択され、同会議の活用が決定された。更に、国レベルで政策を推進するため、厚生労働省、日医、同会議の三者で連携協定を締結したのが最初である。従って腎症重症化予防事業は特定健診と同様、増加する国民医療費削減が主要な目的とされる。
 しかし糖尿病は生活習慣病の一部であり、他に大多数の高血圧症や脂質異常症があるのに何故かという疑問を持たれるだろう。特定健診の目的はメタボという言葉に象徴される生活習慣病対策であるが、今回は重症化予防ワーキンググループが、腎症重症化予防事業を展開している。糖尿病系に偏っているように見えるが、それには一流雑誌への連続的な掲載と疾患ストーリーの世界的展開がある。実際、高血圧、脂質異常症、そして糖尿病などの生活習慣病は、そのどれもが心筋梗塞や脳梗塞を起こすが、政府にアピールするには研究実績が必要なため、素人感覚とはズレる。更に糖尿病診療は、学究の日本糖尿病学会と実診療の日本糖尿病協会が担っている。糖尿病協会は学会設立5年後の昭和36年に設立され、地道な啓発活動やコメディカル教育を行ってきた。多職種連携を当初より組織的に実践してきた実績がある。すなわち行政をも多職種連携メンバーにする下地があった。腎症重症化予防事業は国民医療費削減対策のためではあるが、日本が世界をリードする学会の流れを汲み、医師会が世界の医療をリードできる機会でもある。
 しかし解決すべき課題はある。15年前、河内長野の応戦に着手した時、行政とともに地域医療を向上させようと交渉したが、十分理解が得られず協力体制を構築できなかった。また対診療所でも壁を越える努力が必要であった。河内長野の応戦は、行政なしで中核病院と診療所を結ぶラインを探ったものであり、それ以降行政には応援を頼まなかった。このことが今回発表された大阪府下、31年度保険者努力支援制度の重症化予防点数が、当地区が下位グループになった原因であれば不幸である。協力関係にある体制内の団体同士の考え方の違いに、十分配慮した体制が望まれる。今回の重症化予防事業の組織展開では、問題点はまだクリアされていないと思われる。それは医師会の三層構造が、十分認識されていないことである。医師会構造は郡市区医師会を基礎にして、都道府県医師会と日医がある。日医レベルの合意は都道府県医師会ではある程度反映されるが、郡市区医師会レベルになると、日医決定はある程度意識はするが、それよりも医師会員への平等な貢献度が、判断基準としては大きい。日医決定に反対する郡市区医師会もあるが、それらの集合体が日医なのであり、その協力体制には当然温度差がある。だから日医で決定された事項が、郡市区医師会に浸透していると思うと大きな失敗をする。現在のパイロット的な取り組みはともかく、将来、腎症指導が大規模化されるにあたり、腎症と関係のない診療所でも貢献していけるかが、持続的な医師会員協力の鍵になる。郡市区医師会では実診療に携わるが故に、ギブアンドテイクは非常に重要で、また医師会員全員への平等な貢献が評価されるのである。診療所には生活習慣病管理料や糖尿病合併症管理料、そして糖尿病透析予防指導管理料等のインセンティブがあるから、指導は円滑に進むと思われるかもしれない。しかし施設基準で足かせがあり、また診療費の増額で患者に拒否される場合もあり、最前線での効果が乏しいのが現状である。このような状態では協力が負担になってくる。腎症指導に疎い診療所においても、永続的に腎症指導ができるような支援体制を構築しない限り、クリニカルパスと同様衰退していく運命にある。小規模運営と大規模運営のギャップが、地域医療には存在するのである。
(晴)