TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

時事

働き方改革の現状

府医ニュース

2019年10月2日 第2906号

その多方面からのアプローチ

 現在、働き方改革で進められている方法論としては、①既存の概念を洗い直し視点を変える②労働量を減少させる③新しい方法論の開発――が並行して検討されている。
 2024年までの暫定的制度として、時間外労働時間の目標が設定された。高度な技能を習得する医師を育成することが公益上必要であれば、連続勤務時間制限と勤務間インターバルをしっかり取ることを条件に最高1860時間まで、高度医療と認定されなければ960時間しか認めない。高度医療を目指す医師は、労働時間の拘束がかえって個人の発展を妨げないように、同時に健康にも気をつけるようにと一定の配慮がされている。この高度医療機関の審査組織は決定していない。
 24年以降、一般的には960時間を最大の時間外労働時間とし、いずれは消える地域医療枠の1860時間、高度医療機関では1860時間を最大時間外労働の目標とする。また時間外患者数の多い市中病院では、宿当直を全く認めなければ、地域医療が崩壊することを考慮し、ある程度睡眠を取れれば、それは宿日直と定義するという拡大解釈の方向になってきた。しかし、定義だけで済ませられることではない。例えば来院患者数から勤務時間を割り出すなどの手法で、労働基準監督署に監視される。非常勤当直は本職の時間外労働に加算されないことが望ましいが、長時間労働の安全配慮義務の責任分担問題が討議中である。
 また自己研鑽の定義も厳格化され、自身が研鑽と認めていることが必要で、時間外労働時間と区別するために、医療機関ごとに取り扱いを全職種に明確化し、月間計画を書面提出し上司の承認を得、またその指示の記録を残すなどの監視体制が検討されている。更にタスクシフトに関しては、ひとまとめにしてチームの中で役割分担を決めていく包括的タスクシフトが主流になりそうである。医師の監視下での領域いっぱいの診療補助は、医師の少ない病院では既に日常茶飯事ではある。しかし医師数の多い病院などで包括的タスクシフトを設定しても、部署内の数力学的関係で逆タスクシフトが起こる可能性もある。まだ厚生労働省の研究会レベルで最終決定がされていないことを付け加えておくが、医師法19条1項に規定されている応召義務違反に対しての刑事罰は規定されておらず、また行政処分の実例もないことから、医師個人の場合、ケースバイケースで決定することが許容される方向で検討されている。応召義務が足枷となり、際限のない長時間労働をする必要はないということである。コンビニ受診の抑制にはつながるが、逆に過度の受診抑制にならないような案が検討されている。しかし医療機関レベルで応召拒否を決定すると民事上の責任が生じ得る。
 一番難しい③であるが、働き方改革の達成は構造改革を目指すものであるから、これが最重要課題である。現在厚労省で議論されている方法論は、地域医療崩壊を起こさないように数多くの先生方が努力されている。これに続き本格的な改革に向けた世論を熟成させていかなければならない。大阪府医師会勤務医部会では、そのような新しい試みをプールしつつある。検討中の試みとしては、(1)京セラ方式の採用で、各部署単位で包括的に効率性を追求する(2)複数主治医制と多職種間スマホ連絡網で、各医師の負担を最小化させる(3)欠員が生じた診療所や病院に、代換医師を派遣する互助制度(4)全患者に虚血リスクを提示し、リスク階層化で病院からの逆紹介を促す河内長野の応戦――などである。問題点も多く、大規模に施行できる段階に達したものは少ないが、これら臨床実験の継続と、そこから抽出される問題点の継続議論は、多様性をプールすることにより制度の変化に対応できる柔軟性でもある。働き方改革への取り組みは、まだ一部の医師だけで全員参加の機運は高まっていない。そのためアイデアは数えるほどでしかない。医療体制に纏わる新しい試みのまとめ役は、医師会が先陣を切って場の提供をしないといけない領域である。(晴)