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令和元年度 近医連定時委員総会

府医ニュース

2019年10月2日 第2906号

地域の実情に応じた医療政策を

 近畿医師会連合(今期委員長=寺下浩彰・和歌山県医師会長)は9月8日、和歌山市内のホテルで令和元年度定時委員総会を開催。当日は常任委員会および「医療保険」「地域医療」「医療情報」の3分科会が開かれたほか、横倉義武・日本医師会長による特別講演「日本医師会の医療政策」が行われた。

 委員総会の冒頭、寺下委員長があいさつを行い、医療を取り巻く環境が日増しに厳しくなり、従来の枠組みでは対応が困難になっていると力説。国民皆保険制度を崩壊させかねない課題が矢継ぎ早に出現する状況の中、各分科会で出される意見を今後に生かしたいとした。また、「我々は日医『医の倫理綱領』に基づく精神を共有しているプロフェッショナル集団である」とした上で、真摯な議論から素晴らしい方向性を見出せるとし、本総会が多くの実りをもたらせられるよう期待を寄せた。次に、前期主務地の広岡孝雄・奈良県医師会長が登壇。豪雨や地震などの大規模災害が続発し、医療機関にも被害が発生した状況に触れながら、主務地を務めた前期を振り返った。
 その後、令和元年度の役員選任を報告。委員長には寺下・和歌山県医師会長、副委員長に松井道宣・京都府医師会長および平石英三・和歌山県医師会副会長、常任委員に空地顕一・兵庫県医師会長と越智眞一・滋賀県医師会長、監事に茂松茂人・大阪府医師会長ならびに広岡・奈良県医師会長が就任した。任期は来年6月30日までとなっている。
 続いて、横倉・日医会長、仁坂吉伸・和歌山県知事が来賓としてあいさつ。横倉・日医会長は7月末の参議院議員選挙を振り返り、厳しい戦いであったとした上で、医師会と医師連盟の関係を含めて更なる対応を検討していかねばならないと発言。医政活動の重要性を伝えていくべきであるとした。更に、医療費抑制の動きが強まる現状に触れ、国民に必要な医療を取り戻すことが大切だと強調。医師会が団結し、医療・介護をはじめとする社会保障の重要性を訴えていく必要があるとした。加えて、様々な医療提供体制改革案が出される中、政府の行き過ぎた施策が出てきていると危惧。医療は地域に密着したものであるとし、各都道府県医師会が、地域医療対策協議会や地域医療構想調整会議の議論の場において、地域の目線に立った議論をリードし、地域住民に寄り添った医療・介護の提供体制を構築してほしいと呼びかけた。
 以降は、寺下委員長が議長を務めて進行。奈良県医師会による前年度会務報告の後、平成30年度歳入歳出決算、令和元年度事業計画および歳入歳出予算を審議。いずれも拍手多数で承認された。更に、地域の実情に応じた医療政策を望むとし、「医師偏在対策では管理医療を強制しないこと」など5項目を求める決議が採択された。

日本医師会の医療政策
横倉日医会長が特別講演

 横倉・日医会長は、医師会の歩み、医師会の役割と医の倫理、明るい健康長寿社会に向けて、かかりつけ医機能の更なる定着、超高齢社会・人口減少社会に向けた医療の在り方――について解説。日医は、予防・健康づくりの推進に向け、経済団体・医療団体・保険者・自治体等からなる日本健康会議の取り組みなどにより健康寿命を延伸していくとした上で、全国で地域版日本健康会議を立ち上げ、地域住民の健康増進の取り組みを更に進めてほしいと訴えた。
 また、かかりつけ医を中心とした「切れ目のない医療・介護」提供の重要性を指摘し、日医かかりつけ医機能研修制度の推進状況を説明した。更に、日医が作成している「超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き」を紹介。患者の服薬管理を行う際に活用されることを期待しているとした。
 最後に、「骨太の方針2019」の医療分野の項目に言及。成育基本法に基づく取り組みなど、推進すべき項目を挙げる一方、高齢者の医療の確保に関する法律第14条に基づく地域独自の診療報酬は容認できないと断言。今後、国民負担増と社会保障費抑制に向けた厳しい議論が予想されると締めくくった。

決議

 政府は加速する少子超高齢社会、人口減少に対応するため、地域医療構想の実現をはじめとして、医療従事者の働き方改革と医師偏在対策を進めようとしているが、それぞれ地域の実情に応じた医療政策を望むものであり、特に外来機能の偏在対策では管理医療を強制するものであってはならない。
 社会経済に左右されることのない社会保障、特に国民にとって公平な国民皆保険制度は世界に誇れる制度であり、増加する高額医療に配慮しつつ断固堅持するべきである。また、今後ますます在宅医療が増加する中、個々の患者の視点に立ったよりきめ細かな医療と介護の連携体制の構築が望まれる。特に認知症患者およびその家族が、地域包括ケアシステムの更なる拡充により安心して過ごせる環境創りが必要であり、医療的側面からの対応も今後の課題である。
 一方でICTの進歩は、医療においても、効率的・効果的に利活用することにより充実した医療に結び付けられることが期待できる。しかし一部、医療の根幹を揺るがすような制度の導入には断固反対すべきである。特にオンライン診療が喫緊の課題であり、離島・僻地等は別として通常は対面診療が医師法で定められた原則であることを認識しながらICT導入を考えるべきである。
 我々は、大きな時代の変革期の中、国民医療を守り健康寿命延伸を目標に、2025年問題に対応する観点から以下の点を政府に要望する。


一、格差のない国民皆保険制度を堅持すること
一、社会保障費には十分な予算の確保をすること
一、医師偏在対策では管理医療を強制しないこと
一、認知症患者が安心して療養できる環境を創ること
一、ICTの導入によって医療の根幹が揺るがされないこと

以上、決議する。

令和元年9月8日
近畿医師会連合定時委員総会