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夏から秋への能登半島

府医ニュース

2019年9月25日 第2905号

 19歳の夏の終わりに能登半島を旅しました。
 その年の春、念願の医学部に入学したものの、私には戸惑うことばかりでした。ほぼ均質な集団だった高校時代と違い、同級生には社会人からの再入学など、様々な経歴の人がいました。何より、当時の医学部は学生も教員も圧倒的に男性で、入学当初は確か女子専用トイレがなかったと思います。私には殺伐とした世界に思えました。「私はここでやっていけるのか」から始まって、一気に飛躍して「私はこの世の中を生きていけるのか」とまで思っていました。
 そうして迎えた夏休みの終わりに、高校時代からの友人4人と能登半島一周の旅に出ました。気心の知れた友人との旅で、日頃の緊張感が解けて心が解放されてゆくように感じました。
 旅の詳細の記憶は薄れていますが、数枚の色褪せたカラー写真と旅の印象を書き記したノートが残っています。写真に写っているのは、奥能登の海と空と19歳の私です。
 その旅で感じたのは、それぞれの土地で人々が、それぞれにしんどいことを抱えているのだろうけれど、それぞれに生きているのだという、何とも茫漠とした当然と言えば当然のことでした。そして、旅から帰ると、何となく、自分もこの世の中を生きていけるかもしれないと思うようになっていました。
 19歳の女性が夏から秋への能登半島を旅するという、石川さゆりさんが歌う「能登半島」(作詞・阿久悠/作曲・三木たかし)がヒットしたのは、その翌年のことでした。
(瞳)