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府医ニュース

2019年8月28日 第2902号

 ◆今年の8月も暑さ厳しく、街中の公園や神社の蝉時雨は一際激しい。しかし、庭の小さな木にくっついた抜け殻や道端にひっくり返った亡骸を目にすると、精一杯の鳴き声が随分透き通って聞こえる。
 ◆それは父の初盆を迎えたせいでもあろう。生前、厳格な父の苦労話など直接聞いたことはなかったが、母の想い出話に触れることができた。その一つに、学生時代に空襲にあい、逃げ惑う目の前で友人を失った話がある。よく命が助かり生き長らえたと、時折振り返っていたそうだ。今生きている自分も戦争とは決して無縁ではない。
 ◆世の中、意地を通し、妥協のない自己主張で物事を解決しようとする風潮がまかり通っている。昔から培われてきた秩序や知恵ある選択を無視する高慢な感覚が、新たな危うい道に導く。
 ◆フランスの詩人、ポール・ヴァレリーの言葉に「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく」とある。過去の人たちの教訓に学び、範を取りながら自らの未来に向かって正しく進むべきである。(誠)