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医師・医療関係者のみなさまへ

―第145回 日医定例代議員会―

府医ニュース

2019年7月17日 第2898号

外来医療機能偏在対策への対応を問う

 第145回日本医師会定例代議員会(柵木充明議長)が6月23日、363名(定数368名)の出席の下、日医会館で開かれ、平成30年度事業報告が行われたほか、同年度決算および令和2年度会費賦課徴収の件が審議され、いずれも挙手多数で承認された。また、ブロック代表質問16題が上程され、執行部が答弁。日医の見解を表明した。

 横倉義武・日医会長はまず、4月に開催された「第30回日本医学会総会2019中部」が盛会裏に終わったことを報告。全国会員の支援の賜物と感謝の意を表した。また、年号が変わり初めての代議員会とした上で、令和の時代における医療の大命題は、人生100年時代を迎える中でいかに明るい社会を作り上げていくかであると強調。医療に求められる役割は一層、広範に多様化しているものの、医療が「医師と患者の信頼関係」に基づいて成り立つことに変わりはないと訴えた。

国民的合意を導き出す「議論の場」を

 超高額医療技術の相次ぐ保険導入により、保険財政への深刻な影響が危惧されている状況に触れ、財政健全化と経済成長、社会保障の機能強化を一体的に考える必要があると力説。「必要にして適切な医療を現物給付する」ことが国民皆保険制度の理念であることを改めて確認すべきとした。また、全世代型の社会保障制度の持続可能性を高めていくには、納得の得られる給付と負担を国民的合意として導き出すための「議論の場」を用意し、そこでの議論を通じて必要な財源を確保しなければならないと主張。議論の前提として、医療者・政治家・官僚をはじめ多くの国民が「医療は社会的共通資本である」との認識を共有することが重要とした。

ボトムアップで地域の実情を反映

「医師会が試されている」。外来医師多数区域における新規開業に関する議論の中で横倉日医会長が明言。学校医や初期救急などの「不足機能」を担わない医師に対しては、「地域医療を担う覚悟を問うていきたい」とした
 地域医療構想や医師偏在対策に関しては、地域を知る都道府県医師会が関係会議等で議論をリードし、住民本位の医療・介護の提供体制を構築することが重要と強調。トップダウンではなく、郡市区等医師会からのボトムアップ式に、地域の実情が国の施策に反映される仕組み作りを推進することで、日医が医療政策の質を高めていくと訴えた。最後に、新たな時代に即した医療を国民とともに作り上げていくと宣言。日医の活動に理解と協力を求めた。
 続いて、門田守人・日本医学会長が登壇。日医と「車の両輪」となり医学を牽引していくと、2期目の運営に向けた決意を語った。

決算および会費賦課 徴収について承認

 中川俊男・日医副会長による平成30年度事業報告に続いて議事に移り、今村聡・日医副会長が説明。第1号議案の平成30年度決算については、橋本省・財務委員会委員長(宮城県)より、同委員会で審議の結果、適正であったとされ、挙手多数で承認された。また、第2号議案の令和2年度会費賦課徴収の件では、前年度と同じ会費額および徴収方法が提案され、挙手多数で承認された。
 続いてのブロック代表質問では、近畿ブロックより安東範明代議員(奈良県)が「都道府県保険者協議会と第2期医療費適正化計画の実績評価」、また、松本卓代議員(兵庫県)が「診療報酬改定後の新規導入項目の動向調査を」と題して質問。茂松茂人代議員(大阪府医師会長)が「日本の医療体制の未来について」「外来医師多数区域における外来医療機能の偏在対策」とする質問について関連発言を行い、日医の姿勢を質した。

茂松府医会長が関連質問
三位一体改革は管理医療につながる

 馬瀬大助代議員(富山県)からの代表質問「日本の医療体制の未来について」に対して、今村副会長が答弁。外来医療提供体制に関して、強制的手法による制限を排除し、医師の自主的判断による選択を求める日医の姿勢を貫くと説明。地域医療対策協議会については、地域の実情を反映させ、実効性ある対策につなげていくことが重要な役割であるとした。
 また、平田泰彦代議員(福岡県)からの代表質問「外来医師多数区域における外来医療機能の偏在対策」に対して、羽鳥裕・日医常任理事が答弁。外来医師偏在指標は相対的なものであり絶対的な基準となるものではない、同指標は機械的に運用することのないよう注意が必要、外来医師多数区域で開業を希望する場合に依頼する初期救急医療・学校医・産業医・在宅医療・予防接種などの「不足機能」は医師会活動そのものであるなどとした。更に、地域の医師会でなければ実情に応じた医師偏在是正を進められないため、都道府県医師会および郡市区等医師会が公正な立場で調整機能を発揮してほしいと要請。加えて、今村副会長より、外来医師偏在指標においては単に医師数が示されているのみで、各地域における診療科ごとの需要などが勘案されておらず、将来の医療需要などについて実態を把握している地域の医師会で検討してもらいたいとの補足があった。
 それらを受け、茂松代議員が関連質問で挙手。地域医療構想、医師偏在対策、医師の働き方改革が三位一体で進められている現状に対し、病床・医師数をコントロールし、医師の労働時間を規制するなど、管理医療につながる可能性があると危惧。医療の将来の姿に疑問を感じるとした。また、現在の議論では国民からの信頼を得ることができないとし、「公聴会などにより国民と対話する必要がある」と力説。外来医師偏在指標について、厚生労働省ではなく医師会から提示すべきであったとした上で、国民とともに議論しながら、医師が一致団結して対応しなければ将来に禍根を残すことになると訴えた。

近畿ブロック代表質問
保険者協議会と第2期医療費適正化計画の実績評価
安東 範明 代議員(奈良県)

 各都道府県の保険者協議会への医師会の参画状況と日医の考えを伺いたい。また、第2期医療費適正化計画の実績評価の結果や国推計ツールの妥当性についてご教示願いたい。
 地域医療構想調整会議での話し合いで、各病院が自主的に自院の立ち位置を考え、病床の機能分化と連携を図っている。急性期病床が減少し回復期病床が増加した場合、平均在院日数の増加を招き、却って医療費の増加につながらないか。

保険者協議会に構成員として参画を
答弁 江澤常任理事

 保険者協議会への正式な構成員としての都道府県医師会の参画は、4月1日時点で19協議会、オブザーバーを含めると47すべてとなる。日医の働きかけで、医師会などの参加を得て開催すると明確化されたので、構成員として参画願いたい。
 第2期医療費適正化計画策定時の国推計ツールは、診療報酬改定の影響が見込まれておらず、後発医薬品の使用促進の影響も反映されていない。また、全国一律のツールでは各地域の実情が反映されない。日医として強く主張していく。
 急性期病床から回復期病床への移行による平均在院日数増加に伴う医療費増加については、そうした想定はしていない。引き続き、地域の医療機能の分化・連携などの提供体制の動向を注視することが重要と考える。

近畿ブロック代表質問
診療報酬改定後の新規導入項目の動向調査を
松本 卓 代議員(兵庫県)

 診療報酬改定に際しては、新たに導入された改定項目において、その項目が診療報酬上どのような予算で導入され、改定後、結果としてどれ程の医療費となって反映されたかの検証が必要と考える。
 平成28年度に地域包括診療加算・地域包括診療料が導入された際、どの程度の予算が想定され、結果として医療費がどれ程であったかの検証が必要ではないか。また、今後、このような新しい項目が導入された際、事後の検証を行う仕組みを構築し、公表する用意があるかについて日医の見解を伺いたい。

届出数の多寡が影響 改定後の検証が必要
答弁 松本常任理事

 厳しい財政状況の下、外来医療の機能分化とかかりつけ医機能の推進について、診療報酬改定の度に「小さく生んで大きく育てる・みんなで育てる」との方針で対応してきた。地域包括診療加算・地域包括診療料については、要件の緩和を図ってきた。かかりつけ医機能の普及に向け、今後も要件のハードルが高いことに対して更なる対応を図っていく。
 診療報酬改定においては、財源影響を想定して配分しているが、届出数の多寡により想定どおりの財源影響とならない場合があるので、改定後の検証を行うための仕組みが必要と考える。中医協では、前回改定の答申書の付帯意見に基づき現場での影響を調査・検証し、次回改定に反映している。
 中医協の次期改定に向けての総論的な議論では、かかりつけ医機能の在り方について検証調査などの結果が活用されている。引き続き、医療費の動向やNDBなどのデータを活用して注視していく。

松原・日医副会長答弁
外国人患者に対する医療機関の体制整備について

 「外国人患者に対する医療機関の体制整備として、団体契約による電話医療通訳の全国展開を急ぐべき」とする髙田重男代議員(石川県)からの質問に対して、松原謙二・日医副会長が答弁に立った。
 髙田代議員は、訪日外国人観光客や在留外国人労働者の増加に対して、医療機関側の体制整備が進んでいないことを危惧しているとした上で、石川県医師会が全国に先駆け、平成29年10月より団体契約による「外国人向け電話医療通訳を活用した実証事業」を開始したことを報告。電話医療通訳は大変有用なツールであり、また、団体契約によって費用負担や事務手続きの煩雑さを軽減できるとし、国の財政支援などによる全国展開促進の必要性に対する日医の見解を質した。

安心して利用できる仕組み構築に取り組む

 これに対して松原副会長は、東京オリンピック・パラリンピックや大阪万博などのイベントを控え、「外国人受け入れ医療機関」だけでなく、一般医療機関にも外国人患者が来ることになると指摘。早急に解決すべき問題であるとした上で、厚生労働省が29年度に医療通訳のモデル事業を実施し、今年度は希少言語も含めて対応可能な遠隔通訳サービスなどの環境整備を予定していることを紹介した。
 更に、医療通訳には、医療通訳者の同席、ICT等の機器による自動翻訳、電話医療通訳――の3種類があるとして、各々のメリット・デメリットを説明。これらを場面ごとに組み合わせて、安心して利用できる仕組みの構築に取り組むと明言した。また、診療所や中小病院でも活用できるよう国に要請していくとした。

傍聴記
議事運営

 代議員会の内容は紙面に詳述されているので印象のみを記す。テーマは議事運営。
 個人質問がなくなり、代表質問16題のみなのでフロアからの「関連」を勘案しても緩やかな配置である。各演者は1400字以内、読み上げ5分の制限を遵守されていた。しかし理事者の答弁は懇切丁寧かつ饒舌の傾向がうかがえた。関連質問が入れば一質問20分は要しそうなものを、議事進行表では15分と目論まれていた。
 ところが福岡県平田泰彦代議員の「外来医師多数区域における外来医療機能の偏在対策」は討論に60分を要した。関連質問も茂松府医会長はじめ7名に及んだ。理事者の羽鳥常任理事のみならず、中川副会長、今村副会長、果ては横倉会長と答弁側が4名に膨らんだ。結論は自由開業制度に尽きるのであったが。
 午前中に終了できたのは予定半数の4題のみ。午後は残り12題の消化を目指して走る走る、まさに力技。代議員会リソースの有効利用のために提案したい。質問内容はあらかじめ文書で提出しているのだから、国会のように読み上げ答弁以外の文書回答の制度を併用したらいかがであろうか。前例はあったと思う、議事運営の概念を問いたい。(冬)