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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

女性の脳は男性より3歳若い?!

府医ニュース

2019年6月26日 第2896号

 「いや~ワシも歳とったわ。なかなか思い出せないし、新しいことは覚えられん……」『ワタシは大丈夫よ! まだまだ若い人には負けないわ~』……。なぜ語り口に性差をつけるのだ!とご不満の方もおられるかもしれないが、この書き分けは科学的根拠に基づいている。女性の脳は男性より〝代謝年齢〟で3歳ほど若いのだ。
 セントルイス・ワシントン大学のグループは、以前から〝脳のagingと糖代謝〟に注目し、若い脳では好気的解糖と嫌気的解糖が混在しているが、加齢が進むにつれ好気的解糖は減少の一途を辿り、60歳あたりでほぼ消失することを報告している。ただし、この変化は認知機能正常・アミロイド沈着陰性者でも生じるので加齢神経変性によるものではないらしい(Cell Metab 19:45, 2014 & 26:353, 2017)。
 今回この研究グループが認知機能正常の20~82歳の成人(女性121名、男性84名)を対象として、PET imagingによる脳の局所全ブドウ糖利用、酸素消費量、脳血流のデータを集積、更に好気的解糖を計算したデータを加えて、機械学習アルゴリズムに年齢と脳代謝の関係を見つけるように訓練させた。次にそれに基づいて実年齢と〝代謝年齢〟との関係における男女差を比較した(PNAS Feb.4, 2019)。
 男性のデータで学習したアルゴリズムに女性のデータをインプットすると、「女性の脳年齢は実年齢(男性のデータに基づく)より3.8歳若い」という結果が得られ、逆に女性のデータで学習したアルゴリズムに男性のデータをインプットすると「男性の脳年齢は実年齢(女性のデータに基づく)より2.4歳老化している」という結果が得られた。すなわち「女性の代謝年齢は男性より3歳ほど若い」となる。
 この〝女性の脳の若さ〟は既に20歳代からみられ80歳まで一貫しているようだ。「やっぱり! そうじゃないかと思っていたわ!」と強気になる方、ちょっと待っていただきたい。確かに高齢の同年齢で比較すれば女性が有利かもしれないが、これは必ずしも性差による脳の優劣を意味しない。脳の特性のひとつが成長してからも成熟を続ける〝幼形成熟〟であることを考慮すれば、今回の知見は単に〝男性の脳の方が成人期に女性より3年早く成熟する〟ことを示しているとも解釈できるそうだ。その証拠に20歳の男女の成熟度を比べてみると……。う~ん、やっぱり若い時から女性の脳の方が成熟しているかな~。