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時事

令和2年度専攻医シーリング

府医ニュース

2019年6月26日 第2896号

背水の陣からの一矢

 5月16日、日本専門医機構は厚生労働省医道審議会において令和2年度専攻医募集シーリング案を提出し了承された。各都道府県の意見を聞いた上で確定し、9月中には専攻医の募集を開始する予定である。シーリングの対象は13の基本領域で、外科、産婦人科など6診療科は、医師数減少を理由に対象外となる。提出資料では、内科を例に説明され、誰でも閲覧できる。大阪府に関しては平成28年の足下充足率は1.08で医師過剰と判断され、シーリングの対象となる。因みに現時点の必要医師数は、各診療科別の勤務時間特性、勤務時間の制限等を仮定したマクロ需要推計を用いて算出されている。各項目の計算方法も公開されており、シーリング案の検証もできる。
 さて、これをどのように捉えていくかが今後の方向性を左右する。シーリングの意図は極めて明解で、医師の偏在解消にある。しかし都会で研修している医師に、来月から医師不足地に行くようになどとは言いづらい。既得権があるから、今後専門医になる医師から順次制限を加える手順をとる。これを決めるのに紛糾し、ようやく具体案が出たということだ。この案は厚労省で3月29日に開かれた医療従事者の需給に関する検討会の医師需給分科会の第4次中間取りまとめを受けて、部は違うが同じ厚労省に提出され承認されたという一連の流れがある。28年の専門医機構の足踏み状態から、初めて一歩踏み出した偉業と感動している発言もあった。しかし国民の目から見ると28年の足踏みは、医師の実行力への疑問を抱かせてしまった。専門医機構であろうが日本医師会であろうが、国民からは内容が分からない医師の集団である。国民の関心は、診療所や病院に行けば、適切に診療してくれるかということで、そのような議論にサブスペやシーリングなどの難しい言葉を言っても何の関心も示さないだろう。従って政治力学上では厚労省対医師という構図しか見えておらず、医師自らが自身の体制を改革できないのならば、強権発動しかないのではとなる。
 しかし厚労省は新臨床研修医制度で医師偏在の種を蒔いた経緯もあり、多くの批判から慎重に動いているのが現状だ。プロフェショナルオートノミー制度維持に一応傍観の体制に入っているが、混乱に乗じてすぐに強権発動する姿勢にある。つまり医師偏在解決は待ったなしの緊迫した状況下での話なのである。この期限を我々が十分把握できないまま働き方改革の期限でもある令和5年にされてしまった。更に地域医療構想が絡み、医療需給と三位一体のがんじがらめで迫る政治手腕は恐るべしである。
 この時期に皆が注視する厚労省という舞台で、専門医機構が医師偏在への具体案を提出した政治的意義は非常に大きい。国民に対して医師偏在を解決する方法論を提示したわけである。国民に公表した以上、撤回は専門医機構に対する決定的な不信感につながる可能性がある。しかし話はそこだけで済まされない。今までの経緯から医師全体への不信感につながると、我々は決定権すらなくなるのである。要は提出されたシーリング案に関しては、賛成・反対を問わず一連托生なのである。だから問題は、いかにシーリング案の内部調整に徹するかに話が移っている。この点には専門医機構の寺本民生理事長の「今回はこの数値を基に進める」「より精緻なものにしていく」という姿勢に決意が表れている。
 今回のシーリング案は、非常に仮定法の多い近似式である。既に全国医学部長病院長会議や四病院団体協議会などが反論を述べているのは、医師過剰現象の数値に合わせてシーリング数を弾き出す、ブラックボックス的な自動計算式への不安からである。一方、全体がこの計算方法に納得すれば、必ず平均化するような仕組みになっていることから、後は各都道府県の地域医療対策協議会での話し合いに持っていけば、全員協議の下、地域の医師偏在はなくなる方向へ向かうのである。その膨大な計算は我々が直感的に感じる多い少ないを数式にしただけで少々の機械的誤差が含まれているが、医師需給を通じて全国の各団体を結ぶ新しいネットワークシステムの幕開けでもある。
(晴)