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消費税増税と在宅医療コーディネータ事業

府医ニュース

2019年6月5日 第2894号

 平成27年1月、大阪府で在宅医療コーディネータ事業(在宅医療推進事業)が実施された。地区医師会理事である私はその在宅医療コーディネータに選ばれた。診療の合間に関係各所をまわるなど、在宅医療推進のため精力的に動いた。しかし、私の心の中には納得できない部分があった。それは財源である地域医療介護総合確保基金が、5→8%の消費税増税分を基に作られたことである。
 我が国の医療制度には社会的な富の再分配システムの側面がある。だから、人々の生活と国民皆保険を守るためにコーディネータ活動を行う一方で、本事業が貧富の格差を広げる消費税を利用していることに私はジレンマを感じたのだ。よって、大阪府医師会や地区医師会で行われた報告会では、「事業内容には賛同」だが「本事業は先の消費税増税分で賄われている」ことに必ず触れた。更に在宅医療推進を阻む要素の多くが、緊縮政策によって引き起こされていることにも言及した。
 事業におけるフィールドワークで、低賃金で働く医療・介護スタッフや、仕事のため患者を夜間しか医療につなぐことができない家族、そして低い診療報酬点数や加算システムに翻弄され、病院の経営と理想の医療との間で苦しむ医師の存在を知った。それらは、在宅医を増やせばいい、在宅連携を簡便にシステム化すればいい、そして連携を円滑にするために仲良くすれば解決するという単純な問題ではなかった。連携会議ではいつもポジティブであった地域の仲間達も、現場では解決できない悩みや慢性的な疲れを吐露した。
 緊縮思想は医療現場を取り巻く環境に大きな影響を与えている。特に、デフレ下の緊縮政策では社会保障など必要なものに十分な予算が流れない傾向にある。中間層や貧困層を苦しめる消費税増税で社会保障の財源を賄おうとしても多くの国民が幸福になれないのは明らかだ。今、デフレ状態においても「医療費の財源として消費税増税」と考える会員がおいでなら、地域社会が崩壊し貴方の理想の医療が遂行しにくくなることを想像したほうがいい。私は絶対に嫌だ。
(真)