TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

〝禁断の菓子類〟をレジ横から一掃する

府医ニュース

2019年5月29日 第2893号

 禁断の果実 〝Forbidden fruit〟は旧約聖書の「創世記」における最も有名なエピソードのひとつである。エデンの園で幸せに暮らしていたアダムとエバが蛇に唆(そそのか)されて〝知恵の樹の実〟を食して楽園追放される。不肖ミミズク、不敬を承知で申し上げるが〝神様、心狭すぎ〟である。でも神罰は怖いので摩利支天のご加護を願いあげておく。爾来、禁断の果実は「禁じられているけど欲しくなる物」の代名詞となった。では現代の禁断の果実とは何か、それは肥満や心血管病の大敵、〝禁断の菓子類〟であろう。
 スーパーではどの食品をどこに配置するかはcritical issueだそうだ。なるほどさもありなん、と思う。よく使われている反則ギリギリの手として、「レジ横の陳列」がある。砂糖たっぷりの菓子類などが多く、「今日は買わないぞ!」という消費者の強い決心を揺さぶるに十分な〝悪魔的罠〟と言えよう。
 肥満がグローバルな問題として注目されている昨今、食品販売者側も一定の努力をしてしかるべきではないか、という議論も出てくる。英国では、2013年に大手スーパー9社のうち6社が「レジ横に菓子類(砂糖菓子、チョコレート、ポテトチップスなど)を置かないとの決定(checkout food policy)」を実行した。そこでケンブリッジ大学のグループは、これにより消費者行動にどのような変化が生じたかの検討を行った(PLOS Medicine Dec.18,2018)。
 さてこの〝checkout food policy〟の効果、なかなかどうして、たいしたものであった。購入食品をすべて記録している3万家庭を対象とした13~17年の調査では、上記菓子類の購入(家庭へ持ち帰り分)は直ちに17%減少し、1年後でも16%減少していた。また持ち帰りせずに外で食べる食品をすべて記録している7500人を対象とした調査では、レジ横に菓子類を陳列している店と比較すると購入が何と76%も少なかった。
 販売者の理解を得て、食品の配置を工夫することにより消費者を〝非健康的な食品〟から守ることは可能であろう。もちろん売る方にもいろいろ事情があるだろうが、ここは国民の健康増進の観点から最大限の協力を期待したい。そしてもし〝健康増進〟を旗印に食品陳列の大改革を推し進めたらどうなるか……。予言者たるミミズクはここに断言する。レジ横には、ありとあらゆる健康食品とサプリメントが満ち溢れるであろう。