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AIと医療

府医ニュース

2019年5月29日 第2893号

国民皆保険制度における非構造化の構造化

 厚生労働省の保健医療分野AI開発加速コンソーシアムでは、日本におけるAIがどのようになっているかの概観を知るための資料が提出されている。膨大な知識領域をどのように筋道立てていくかは混沌としており、現段階では手探り状態である。AIはともすればハードの技術に注目されがちであるが、膨大な領域を包含しており、産業界、経済界、学会など様々な分野で期待するところが甚大である。ただ、暴走すると非常に危険なシステムであるため、方向を見定めながら、かつ先進的でなければならない。
 初めてコンピュータが実用化され、その後アップルやウィンドウズが出現し、インターネット技術の発展とともにグーグルやアマゾンが出現したように、脈絡のない大発明が米国という一つの国で連続して出現したことは、文化的な背景が継続した発明を産んできた歴史といえる。文化土壌に沿った技術の開発が必要であることを示している。この考えを基に、日本で発達しそうなAIが抽出されている。
 AIの応用が研究されている分野は現在、ゲノム医療、画像診療支援、診断・診療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援の6領域である。保健医療分野におけるAI活用推進懇談会によると、我が国が世界的に進んでいると考えられる分野は、①画像診療支援②医薬品開発③手術支援――である。現在でもAI関連医療機器を支えるのは胃二重造影に代表される放射線診断に始まり、内視鏡の高い解像技術と、それに関連した画像処理技術が背景になっている。これらで作成された正確な資料を、AIが統合し最終診断するわけである。医薬品開発への応用は、日本発創薬の実績があることが最大の理由で、化合物探索や薬物動態、毒性予測に膨大な情報を統合していく過程、臨床試験には臨床データ、ゲノム情報、論文情報などを統合していく過程に使用される。手術支援に関しては、AI手術支援を行うスマート治療室SCOT(Smart Cyber Operating Theater)に代表されるように、現実空間では、現在の手術時のモニターから発生するあらゆるデジタル情報、熟練医師や術者のコメントが統合され、電脳空間に送られるとともに、過去の術例や患者の位置情報、病理検査などが総合化され、術者や医局のディスプレイに表示される。日本はこの手術データの統合に一歩抜きん出ているのである。
 診断・診療支援への応用であるが、素人考えでは、コンピュータに教科書丸ごと入れれば、後は検査値に従ってアルゴリズムに沿った判断で臨床診断は簡単にできると考える。しかしそう簡単なものではないらしい。AIを教育するにしてもAIで診断するにしても、相手は機械であるから、賢く学習するには、まず四角四面のデータを入力しないと受け付けない。曖昧なデータを多数の通訳が加工入力して診察アルゴリズムを作成しているのが現状である。スキャンデータとか走り書きのようなカルテ記載は、非構造的で統一性がなくコンピュータは理解しない。AIホスピタル、スマート治療室などは、コンピュータ言語を意識した技術者が作るので、構造化されたデータのみの集合体で構成されている。
 非構造化データを完全に、または適当に理解するAIが出現するまでは、診断領域全般をAIで管理することは無理がある。しかし四角四面でも構わないという覚悟を持つならば、その領域での診療支援ツールとしては最高の効率が確保できるため、AI導入は今後多大な貢献が期待できると思われる。AI診断・診療支援は学会に任せておくという感覚は間違っている。身近な診療行為や地域医療において、手作りでよいから構造化できるのであれば構造化していく地道な作業の継続が必要である。この行為の蓄積が、医療の膨大な非構造化の構造化につながり、それは後に上述したAIの分野で、世界をリードする国民皆保険制度になるのである。(晴)