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医師・医療関係者のみなさまへ

HIV地域医療連携研修会

府医ニュース

2019年4月3日 第2888号

適切な治療で「感染」防止

 大阪府からの事業委託を受け、大阪府医師会は平成30年度「HIV地域医療連携研修会」を3月2日午後、府医会館で開催。エイズ治療の現状やそれに伴う病診連携の重要性などが示され、会員ら約50人が聴講した。

 冒頭、中尾正俊副会長があいさつ。治療の進歩や加齢に伴う疾患により、「エイズ治療拠点病院で受療中の患者が、市中病院や診療所に受診する機会が増えている」とし、適切な受け入れ体制が求められると述べた。また、若年層の感染を懸念。正しい知識の啓発が重要であり、本研修会がその一助になればと期待を寄せた。
 続いて、福田弥一郎氏(府医感染症対策・予防接種問題検討委員会委員)が座長を務め、白阪琢磨氏(大阪医療センターエイズ先端医療研究部長・HIV/AIDS先端医療開発センター長)が、「HIV感染症で期待される病診連携と新たな課題」と題して講演を行った。まず、エイズの最新の知見として、①致死の病ではない②適切な治療の継続によりHIVの感染防止が可能③治療薬は1日1回1錠――と言及。約20年前は平均余命8年程度であったが、現在は「健常者と匹敵するようになった」と述べた。また、ウイルス量を限界値未満に抑えることで、CDC(アメリカ疾病管理予防センター/Centers for Disease Control and Prevention)は、「良好な治療状況の患者からHIVが感染するリスクは実質的にないと結論付けた」と加えた。一方で、内閣府が30年に行ったエイズの印象に関する調査では、「死に至る疾患」「原因不明で治療法がない」との回答が上位を占めており、「国民への周知が課題」とした。
 次いで我が国の動向や抗HIV薬などを詳説。治療の進歩により、「HIV感染症は慢性疾患になった」と述べるとともに、感染蔓延の終焉に向けた対策として、「早期発見・早期治療」を掲げた。また、自院への通院状況を踏まえ、「患者の他科受診のニーズは増加している」と説明。しかし、医療機関の中には、▽病状が不明▽HIV患者の診察経験がない▽風評被害を懸念▽感染のリスクが心配――などの理由で診察に積極的になれない現状もあるとの見方を示した。このため、府医では「HIV陽性者診療連携の手引き」(29年3月)を策定し、HIV陽性者が安心して医療を受けられるよう促しているほか、府医ホームページに針刺し事故の際の緊急対応(https://www.osaka.med.or.jp/medicals/detail?id=86)を掲載していると述べた。
 更に、白阪氏は自院で実施した「他院受診状況に関する調査」を紹介。374例の回答から「他院への受診状況」は8割を超え、診療所が半数を超えていると伝えた。「受診時にHIV感染を伝えたか」との項目では87人が「伝えた」と報告。理由の上位にあった「感染させてしまうと考えた」との発言に触れ、「患者の葛藤やプライバシーへの配慮にも理解を深めてほしい」と語った。
 そのほか、感染者数の増加が著しい梅毒を取り上げ、特に若年層の拡大を危惧。SNSなどの誤った情報を盲信するケースも散見されており、学校教育を中心とした「正しい知識の普及が重要」と強調。課題は多いが、「今が大事な時期」とし、積極的な感染防止対策が必要と締めくくった。

エイズ治療拠点病院
医療機関等への情報提供・教育機能も

都道府県が選定し、2カ所以上整備する必要がある。大阪では16病院。エイズ診療の基本的在り方として、「エイズ治療の拠点病院の整備について」(健医発第825号・厚生省保健医療局長通知/平成5年7月28日)では、「身近な医療機関で一般的な診療、エイズ治療拠点病院で総合的、専門的医療を提供する」とされている。また、拠点病院には、エイズ診療に関する情報収集と地域の医療機関への情報提供、医療従事者への教育機能が期待される。