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長い通路

府医ニュース

2019年3月6日 第2885号

夭逝(ようせい)にあこがれゐたる少女期の
故なき焦立(いらだ)ち思へば遠し
尾崎左永子(昭和2年生/歌人)

 私は夭逝に憧れたことはありませんが、この短歌を目にしたとき、「少女期の故なき焦立ち思へば遠し」に共感を覚えました。
 毎日の自分の診療所への電車通勤で、出身高校の最寄り駅を通過します。高校のある側の小さな改札口へは、駅舎から線路に沿って長い通路が伸びています。その通路には壁がなく、両側に低い木製の柵があるだけで、トタン屋根がのっています。私の高校時代から変わっていません。電車の窓から、その古い長い通路が見えるたびに、今も切なさが込み上げてきます。
 医学部志望でしたが、進路指導では「無理」と言われていました。約40年前のその頃は、医学部志望の女子は少なく、特に私のような成績抜群でもない女子が志望するのは肩身が狭い雰囲気がありました。
 「無理」と言われ、「〇〇女子大に行った方が結婚の条件が良いのに」と言われながら、私は目の前の先生ではなく、もっと広い「世間」と闘っているような気持ちでいました。しかし、もがいてもなかなか成績は上がらず、「医学部志望はやめます」とひとこと言えば楽になれるのにそう言わない私は、目に見えない「世間」の笑い者になっているのではないかと思っていました。それは、思春期の思い込みの激しさゆえであったと今では思います。
 そんな日々、あの長い通路を歩いて通学していました。
 今、「何も心配することはない」と高校生の私に言ってやりたいと思います。しかし同時に、あの頃の「故なき焦立ち」が私の原動力になったとも思うのです。(瞳)