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時事

救急現場における心肺蘇生のあり方

府医ニュース

2019年3月6日 第2885号

ここでも問われる「地域力」

 2月14日、消防庁「傷病者の意思に沿った救急現場における心肺蘇生の実施に関する検討部会」第6回の会合が開催された。この部会は昨年5月、「救急業務のあり方に関する検討会」の下に立ち上げられたもので、今回の会議では報告書(素案)が提示された。
 救急現場等で、老衰やがんなどにより人生の最終段階にある傷病者の家族等から、本人は心肺蘇生を望んでいないと伝えられる事案について、全国の728消防本部を対象とした実態調査(平成30年9月速報版)によると、396消防本部(全体の54.4%)は対応方針を定めていない。他方、332消防本部(同45.6%)では対応方針を定めており、201消防本部 (定めているうちの60.5%)は、傷病者本人の心肺蘇生を拒否する意思表示を伝えられても、心肺蘇生を実施しながら搬送する対応方針としており、100消防本部(同30.1%)は医師からの指示の下に、心肺蘇生を実施しない、または中止するとしている。ちなみに事案の集計を行っているのは、42消防本部(全体の5.8%)にとどまっていた。
 大阪市消防局では、傷病者の生命保護を最優先とし、家族や関係者に十分に説明の上、必要な処置を継続して医療機関に搬送する対応が取られている。広島市や埼玉西部消防局では、かかりつけ医や高齢施設の嘱託医等と連絡し、時にオンラインMC(メディカル・コントロール)医との相談も交えつつ、指示により心肺蘇生を中止したり、実施しないで医療機関に搬送する対応が取られている。集計結果では、医師に連絡が取れた場合でも、医師の現場到着までに時間がかかるなど、長時間の現場待機が課題のひとつに挙げられた。
 救急隊は救命を役割とし、速やかな心肺蘇生の実施を基本としているが、30年3月、厚生労働省が改訂した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にACP(アドバンス・ケア・プランニング)の考え方が盛り込まれたことから、救急現場においても、時間的情報的な制約がある中、これを尊重する方向になっていくと見通している。
 現時点では事案の集積が不十分であるため、今後知見を蓄積し、将来的には救急隊の対応の標準的な手順を検討することを、今後の方向性に掲げた。
 そして各項の中で、▽かかりつけ医以外の方法で、関係者がどのように方針を共有し、誰が判断するか▽在宅医療や高齢施設において速やかに死亡診断を行う体制の整備▽人生の最終段階における医療・ケアについての事前の取り組みや環境▽関係者間の連携推進――などの課題を示した上で、必要のない救急要請を避けることが重要であり、医療、福祉等関係者が取り組みを進めること、患者本人や家族等がどのような最期を迎えたいか考え、医療・介護従事者、家族等も参加して準備を進めていくことが大切と結んでいる。
 超高齢社会における、人生の最終段階に向けた問題の一部として、地域全体で取り組むべき課題であろう。
(学)