TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

脳へ〝緊急降下〟する好中球

府医ニュース

2019年2月27日 第2884号

 災害や重大事故が起こると、即応できる機動性と高度のスキルを持った救助チームが活躍する。消防庁の「ハイパー・レスキュー隊」がよく知られている。また高度の機動性と専門性を持った医療チームとしては「ドクター・ヘリ」がある。不肖ミミズクも生まれ変わったらドクター・ヘリで活躍したい。でも高所恐怖症を治さないと無理だろう。「〝高所恐怖症のミミズク〟なんておかしいだろ!」というご意見はごもっともであるが、ここは〝菜食主義者のライオン〟のイメージを思い浮かべてご理解いただきたい。
 話が大幅に逸れたが〝緊急・即応〟と言えば、高所からロープを使って迅速に現場に降下する、というイメージがある。実際、災害時にはよくテレビで目にする。では人体で起きる緊急事態ではどうであろうか。最近、ハーバード大学のグループが脳卒中における好中球の病巣への遊走について、興味ある研究成果を発表した(Nature Neuroscience 9:1209 2018)。
 脳卒中が起こると脳組織はダメージを負う。そこに自然免疫の担い手である好中球が遊走する。では、好中球はどこから来るか?「そりゃ、血流に乗って脳に来るのだろう」と誰しも思う。ミミズクもそう思っていた。しかし著者らはマウスのモデルを用いて、実は頭骨の骨髄から脳に通じる〝抜け穴〟があり、脳卒中が起こった際には、それを通って即応的に頭骨骨髄の好中球が脳の障害部位に降下することを明らかにした。しかも〝見てきたような嘘を……〟との批判を受けないように、共焦点レーザー顕微鏡を用いて抜け穴を三次元映像で可視化している。すなわち、頭骨骨髄には〝好中球が脳へ緊急降下するルート〟があるのだ。
 この抜け穴、ヒトにもあるらしい。サイズはマウスの5倍ほど大きいという。しかし脳卒中に即応して好中球が脳に動員されるのは良いとしても、それがために、よけいに組織障害が悪化する危惧もある。これについて病態生理学のテキストは「自然免疫細胞による炎症は急性期には組織障害を助長するが、慢性期には組織修復とリモデリングに寄与している」(Stroke:pathophysiology, diagnosis, and management. Elsevier 2016)と宣っている。まさに〝荒廃からの復興〟である。ここで思わず〝あ~か~い~リンゴに~くちび~る寄せて~♪〟と口ずさんだミミズクは、もう年だろうか。