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医師・医療関係者のみなさまへ

緩和医療に関する研修会(シリーズ⑩)

府医ニュース

2019年2月27日 第2884号

人生の最終段階を支えるために
「治し、支える」医療へ

 平成30年度緩和医療に関する研修会が1月30日午後、大阪府医師会館で開催された。府医では在宅医療における緩和医療体制の構築を目指し、26年度より研修会を実施。通算10回目となる今回は、「終末期患者に出現する治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する考え方」をテーマに講演が行われた。

 大平真司理事の座長の下、はじめに中尾正俊副会長があいさつ。緩和ケアでは、身体的苦痛を和らげることに加え、精神的なサポートが求められるとした。「治す医療」から「治し、支える医療」へと変遷する中、人生の最終段階をいかに支え合うかが大切として、本講演を一助にしてほしいと述べた。
 講演では、池永昌之氏(淀川キリスト教病院緩和医療内科主任部長)が登壇した。今回の内容は「緩和ケア医でも意見が分かれる」と前置き。昨年、改訂・改題された「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018年版」(日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会/金原出版)を紐解き、現状の考え方を示した。末期がん患者の臨死期では、耐え難い苦痛によって、意識の維持や身体症状の緩和が困難な場合が散見されると指摘。その上で、治療抵抗性の苦痛とは、「患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても、患者の満足する程度に緩和することができないと考えられる苦痛」と定義した。一方で、鎮静の頻度は患者の療養環境や患者自身の「耐え難さ」の判断、鎮静の分類の在り方によっても異なるため、鎮静の頻度が緩和ケアの質を表すとは言えないと述べた。また、積極的安楽死と鎮静の相違点を列挙。苦痛の緩和が目的であっても、前者は致死性薬物の投与であり、その結果は「患者の死」であるが、後者は必要な鎮静薬を投与し、患者の状況を評価していくとした。更に、鎮静と生命予後の短縮に関する文献を提示。現状では専門家でも意見が分かれていると語った。
 池永氏は家族のケアについても詳しく言及。人生の最終段階では、「最後の数時間に起こったことが、残される家族の心の癒しにも悲嘆の回復の妨げにもなる」とのシシリー・ソンダース(英国ホスピスの創始者)の言葉を紹介。家族の気持ちを十分配慮するよう呼びかけた。
 最後に、苦痛緩和のための鎮静の考え方を改めて説明。他に手段がない場合に鎮静薬を投与し、苦痛緩和を図ろうとすることは医学的・倫理的・法的に正しい行為であると強調した。また、鎮静の施行にあたっては患者の意思の尊重、チームでの意思決定が重要であるとまとめた。