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大腸がん集団検診(住之江方式)
の思い出

府医ニュース

2019年2月20日 第2883号

住之江区医師会 濵﨑 寛

 この度、厚生労働省は平成28年施行の「がん登録推進法」に基づく新規がん患者数を発表した。99万5132人である。
 従前の「地域がん登録」に基づく任意届出によるがん患者数ではなく、すべての病院に届出を義務付けた「全国がん登録」(診療所は任意の届出)の導入により把握されたほぼ実数に近い初めての集計である。27年がん患者数(89万1445人)に比して10万人以上の差があった。
 男女合計では、1位「大腸がん」15万8千人、2位「胃がん」13万5千人、3位「肺がん」12万5千人と続く。
 今般の報道を見て、昭和から平成に変わろうとする激動期の医師会活動を思い出した。
 昭和63年から平成5年までの6年間に住之江区内の住民(対象約3万9千人)に対し延べ2万9478人の大腸がん集団検診(便潜血反応検査)を実施し、大腸がん患者168人を発見したが、そのうち早期がん107人、進行がん61人であった。執筆した論文も30本近くにのぼる。
 現在、市町村の保健事業の一環として組み込まれており、その有益性が高く評価されている大腸がん検診ではあるが、63年当時は、実施に際し数々の障壁が存在した。
 中でも特に苦心したのが、「大腸がん検診はあくまで自費診療であり、要精検となった場合は自費診療で取り扱うべし」とする見解(国会における厚生省答弁)があったことである。
 当時、住之江区医師会長を務めていた私は、「医師会と行政・住民組織の3者連携による大腸がん検診(住之江方式)に取り組む」と機関決定してみたものの、精検診療が自費になってしまっては受診率に大きな影響を及ぼすため、剣ヶ峰に立たされた気分であった。そこで私は大阪府医師会に度々足を運び、「何とか保険診療で診ることはできないか」と陳情を行った。
 当時の事務局の担当者Y氏は、住之江方式の意義を十分に認識され、「このまま頓挫させるわけにはいかない」と積極的に動いてくれた。担当理事・担当副会長とも検討を重ねられ府医としての了承の下、「精検を保険診療で実施すること」が認められた。暗礁の多い船出ではあったが、平成14年には日本対がん協会賞、15年には日本消化器集団検診学会学術奨励賞も受賞した。
 30年の時を経て、大腸がん新規患者数16万人(報道)を見た時、まだまだ検診受診率が低く(大阪市の大腸がん検診は8.5%〈25年〉)、これからも増え続けるであろう大腸がんを減らすためには、たゆまぬ努力が必要と感じた。2月17日には第13回目となるシンポジウム「大腸がん死亡ゼロを目指して」(メルパルク大阪/毎日新聞社主催)が盛会裏に終えた。大腸がん検診の広がりに期待したい。