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時事

外国人労働者受け入れと少子化対策

府医ニュース

2018年11月28日 第2875号

人口増加には長期的な施策が必要

 11月13日の衆院本会議で、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理及び難民認定法改正案が審議入りした。人手不足の建設・農業・介護・宿泊・造船の5業種を対象に、来年4月から新設する特定技能評価試験に合格すれば5年間の就労資格を得られる。技能実習生として最長5年滞在した外国人は試験が免除され、更に5年間日本で働けることになる。最初の5年間は単身が原則であるが、その後の在留資格は緩和される。現在、高度人材以外は家族の帯同は認めていない。永住許可は明確なものでなく、10年間独立した生計を営む経済力を持てば、そこで判断されることになる。こうした制度以外に、週28時間までアルバイトが認められる「留学生」の名目で入国する外国人もいる。コンビニなどで見かける外国人アルバイトのほとんどは留学生である。日本で働く外国人は昨年時点で計127万人に達した。日本は移民政策を採っていないが、国連の定義では、移民は「1年以上外国で暮らす人」である。これによると、日本には約247万人の移民が居住し、そのうち就労ビザを持つ者は2割、残りの80万人近くは違法就労である。
 新制度によって、政府は2025年までに、更に50万人超の外国人労働者の受け入れを目指す予定である。この政策は、アベノミクスの成長戦略の延長で、円安誘導の結果、空洞化した日本経済が再興する過程で、高齢化に伴う人手不足が要因である。以前よりも経済が拡大し恩恵を受ける人々は多く、バブル崩壊前と異なり、社会情勢や経済構造の変化が社会的意識にも影響を及ぼし、反対意見は小さくなっている。医療・介護分野にも関連する話題であるが、現在、議論されている課題は、①文化や言語の違いによる排斥運動②犯罪率の増加③不法滞在④人権侵害⑤低賃金の固定化⑥行政コストの増加⑦機械省力化への投資意欲減退――などである。これらを熟考した結果、外国人労働者を受け入れるという動機が強ければ、それなりの覚悟と責任を持って臨む必要がある。移民先進国のドイツやフランスでは、非熟練労働者の受け入れを制限し、専門的技術を持つ労働者の受け入れを進めている。更にドイツでは、600時間のドイツ語研修、100時間の社会ルールや法律のオリエンテーションの義務付けも行っている。フランスも同様のシステムがあり、言葉による異文化の理解が移民政策の基本であることは、これら国々の痛い経験に基づいた結論であろう。我が国でも、受け入れ数に見合う言語や文化の教育体制が準備されているのか注視していかなければならない。しかし、もっと問題なのは、違法就労者が無視できないほど多く、それらの人材が日本の経済を支えている現実である。
 人口増加のための長期戦略は、並行して実施しなければならない。働き方改革はその一部であろうが、各方面で真剣に政策として少子化問題に取り組まない限り、延々と移民政策を続けざるを得なくなる。就労人口の低下は出生率に左右される。出生率低下の主な原因には、▽教育費▽女性労働者の増加▽仕事と育児の両立の難しさ▽労働参加の増加▽高学歴化による晩婚や未婚の増加――などが挙げられる。世界銀行の16年の統計によると、日本の出生率は1.440で171位であった。トップはニジェールの7.239、経済連携協定で外国人労働者受け入れ国であるインドネシアは2.363、フィリピンは2.925、ベトナムは1.954、最下位は意外にも韓国と台湾の1.172、一人っ子政策を撤廃した中国は1.624である。フランスやスウェーデンは、過去、出生率が日本並みに低下したが、家族手当等の経済支援から開始し、90年代より保育の充実、出産、子育て、就労への幅広い選択ができる環境整備に力を入れ、16年にはフランス1.96、スウェーデン1.85にまで回復した。少子化対策の基本は、様々な要因が複雑に交錯しており、各国とも一様ではなく、気の長い複合的な政策が求められる。外国人労働者受け入れはあくまで少子化対策の起爆剤として必要最小限であるべきで、これに対して無策だと、上記の問題が各地で起こり得ることを覚悟しなければならない。(晴)