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医師・医療関係者のみなさまへ

勤務医部会活動報告

府医ニュース

2018年11月21日 第2874号

医師は労働者か――全国医師会
勤務医部会連絡協議会で討議

府医勤務医部会副部会長 幸原 晴彦
 平成30年度全国医師会勤務医部会連絡協議会が11月3日、長崎県で開催された。冒頭、横倉義武・日本医師会長は、医療による健康寿命の延伸を重要課題として、「日本健康会議」を立ち上げ全国活動を展開していると報告。また、医師の働き方改革においては、地域医療の継続性と医師の健康への配慮を軸に「日医でも検討を進めている」とし、厚生労働省でも患者の受診協力などの議論を開始したと述べた。
 増崎英明・長崎大学病院長は、日本の西洋医学に対する長崎の貢献を紹介。出島商館医のケンペル、ツュンベリー、シーボルトや、1861年に長大医学部の前身である養成所を設立したポンペの功績を讃えた。午後からは「医師は労働者か」のテーマで、安里賀奈子氏(厚労省労働基準局労働条件政策課医療労働企画官・医政局医療経営支援課医療勤務環境改善推進室長)が発表。厚労省の医師の働き方改革に関する検討会で今年度中に結論を出し、2024年4月から適用の予定であるが、「病院長の音頭取りが重要」との見方を示した。
 勤務医の代表が集結するこの会は、厚労省としても難しい対応であったと思う。今回、厚労省は融和的であった。まず安里氏の肩書である。厚労省内で対立的と噂される2つの局を掛け持つ室長であり、我々の不安に配慮がみられた。講演後に「労基局の摘発は地域医療を崩壊させる気か?」との悲痛な某病院長の質問に対し、告発があればやむを得ず対応するが、「その地域の情報はすべて把握していること」「かなり悪質である時に限られること」を踏まえ、総合的に決定すると回答された。今年1月に公表された「緊急的な取組」がカギとなるような印象を受けた。
 福崎博考弁護士は、労働法制の厳格な適応は、「医師に患者の命と労働時間厳守の二者択一を求める究極の選択につながりかねない」と指摘。例外的取り扱いが必要な部分があり、大改革に位置付けられると評した。岡留健一郎・済生会福岡医療福祉センター総長は、「タスクシフトに関しては今年中には具体化するが、包括的に考えるべきである」と主張した。片岡仁美・岡山大学医療人材育成講座教授は、大学における女性医師のキャリア支援体制を紹介した。小野潔・佐賀県医療センター好生館副事務部長は、労働基準監督署の立ち入り調査の後、1.是正勧告への対応2.時間外業務対策3.働き方改革委員会の立ち上げ――等の努力にもかかわらず、結果的に救急医療などの業務が縮小し、医業収入が減ったことや、患者満足度の低下が顕著となり、働き方改革が診療時間の短縮につながらなかったとの例を挙げた。
 その後、中道親昭・長崎医療センター高度救命救急センター長、八坂貴宏・上五島病院長、押淵徹・平戸市民病院長の3氏が「医療現場からの叫び」と題し、長崎県における医療過疎の悲痛な現状を発表した。
 今回の連絡協議会では、▽働き方改革への反例が挙がってきた▽厚労省の弱腰ではないが融和的な態度▽法曹界から法的介入の困難性が指摘された▽発表者が誰も目標が見えていない――などが浮き彫りになった。ただ医師の健康を守る観点から、働き方改革を頭ごなしに否定するべきではない。これだけ多くの賢人が議論しているのであるから、青天の霹靂は起こりそうな気がする。しかし、その中でも、「緊急的な取組」だけはしっかり実施しておく必要があると考える。