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医師・医療関係者のみなさまへ

医療問題研究委員会 茂松会長が講演

府医ニュース

2018年11月7日 第2873号

国民視点での医療施策充実

 大阪府医師会は9月12日、今期委員の初会合となる平成30年度第1回医療問題研究委員会を開催。茂松茂人会長が、「医療制度史から見た我が国の医療の現状」と題して2回にわたり講演を行った(第2回は10月10日に開催)。

 はじめに担当の栗山隆信理事が、同委員会の概要および今期2年間の開催計画を説明。前半は本会役員の講演、日本医師会「医療政策シンポジウム2019」(31年2月13日開催予定)のテレビ会議システムでの聴講、後半に委員によるグループディスカッション・プレゼンテーションを企画しているとした。
 茂松会長は、日本の医療の特徴について、1.国民皆保険体制2.現物給付3.フリーアクセス4.低コストでの平等な医療の提供5.世界トップクラスの長寿6.低い乳幼児死亡率の実現――を列挙。しかし、世界と比べ医療への財源投入は少なく、患者負担率が高いとした。また、病床数や在院日数は多いものの、医療従事者数の偏在・不足や女性医師数の割合が低いと指摘。更に、我が国の一人/一日当たりの各医療費の費用分析を見ると、高齢者が突出して高いとは言い難いと説明。高齢者は複数の疾病を有し、受診回数も多い傾向にあるが、重症化予防につながっていると理解を求めた。その上で、医療費抑制を主眼とする国の方針に疑念を示し、国民視点での医療施策の充実を訴えた。
 戦後以降の医療制度史では、「量的生産の時代(戦後から1980年代)」「医療費急増の時代(80~90年代)」「医療費抑制の時代(90年代~現在)」――に分けて検証。昭和58年に当時の厚生省保険局長が提唱した「医療費亡国論」や、小泉純一郎政権での医療政策などにも触れた。特に小泉政権では、医療分野での市場競争原理の導入、規制緩和への圧力があり、日本医師会長を務めた故植松治雄氏(元府医会長)が国民運動を展開するなど、これに対峙したと述べた。また、「社会保障国民会議報告書(25年8月)」の概要を提示。社会保障の概念を変更し、「公助」は「自助」「共助」を補完するとの見解や、ゲートキーパー機能を備えた「かかりつけ医」の普及など、問題点が散見されるとした。近年では、地域包括ケアシステムや地域医療構想に関し、国民の認識が十分でない中での拙速な議論を警戒。「適切な医療提供体制の構築こそが医師会の役割」と改めて強調した。

医政への理解を求める

 第2回同委員会では、医療事故調査制度に関して言及。WHOドラフトガイドライン上の「学習を目的としたシステム」に該当し、責任追及ではなく再発防止を図ることが本来の趣旨とした。また、医療の不確実性にも触れ、同制度が医療安全の向上に資するよう求めた。
 茂松会長は、国による管理医療を「日本版マネージドケア」と表現した。IoT化や医師の階層化により、この流れが着実に進んでいると危機感を表明。医療界が分断されることなく、一丸となって対応すべきと力を込めた。
 最後に、近年の経済動向を概観。成熟社会にあるものの経済施策が優先され、企業の内部留保は大幅に増加しているとした。一方で賃金は伸び悩み、社会保障費が抑制されるなど、国民の将来不安は非常に大きいと懸念。これを払拭すべく、医師会では社会保障の充実を訴えるとともに、社会格差の解消に取り組んでいると述べた。また、これらは本来、「政治の務めである」と主張。我々が望む医療・社会保障施策の実現には、強固な組織づくりと医政への理解が不可欠であるとまとめた。

医療問題研究委員会

 若手会員の意見や考え方を吸収するとともに、医療問題全般にわたって研鑽を深め、将来の医師会を担う人材の育成を目的としている。平成10年に発足し、第1期生として茂松会長、松原謙二・日医副会長らも研鑽を積んだ。原則50歳以下の会員で構成。任期は2年。