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医師・医療関係者のみなさまへ

第40回大阪の医療と福祉を考える公開討論会

府医ニュース

2018年10月31日 第2872号

「人生の最終段階」気楽に話す機会を

 大阪府医師会は、毎日新聞社・毎日放送・大阪府地域医療推進協議会との共催で、府民向けイベントとして昭和56年より「大阪の医療と福祉を考える公開討論会」を実施している。第40回となる今回は10月13日午後、府医会館で開催。府民ら約310人が聴講する中、「『看取る』ということ――最期の思いを大切に」をテーマに、人生の最終段階の過ごし方についてパネリストらが意見を交わした。

 当日は、第1部として公開討論会を実施。司会を上田崇順・毎日放送(MBS)アナウンサーが務めた。パネリストには病院での看取り経験が豊富な鹿島洋一氏(新仁会病院長)、在宅で父親を看取った経験を持つMBSアナウンサーの古川圭子氏を迎え、コメンテーターとして阪本栄理事が登壇。2つの事例を軸に、人生の最終段階の過ごし方について考えた。
 なお、本討論会の模様は、11月17日の毎日新聞朝刊で特集記事として掲載を予定しているほか、翌18日午後8時からの毎日放送ラジオでも1時間番組に編集して放送する。
 討論会終了後には、第2部として映画試写会を実施。「オズランド」を上映した。

自分らしい生き方、医療関係者らと共有を
茂松会長あいさつ

 高齢化による「多死社会」を迎える中、「人生の最終段階の過ごし方」を考えることが大切になっている。先般亡くなられた俳優の樹木希林さんは、自分の境遇をすべて受け入れ、「死」をタブー視することなく、周囲に自身の生き方を示された。
 晩年、自身がどう過ごしたいかを考え、その意思を家族や医療関係者らと共有しておくことは非常に重要である。今回は病院での看取り事例から、「人生の最終段階の過ごし方」を考える機会を提供したい。本討論会が有意義なものとなれば幸いである。

希望に沿う治療
新仁会病院長 鹿島 洋一 氏

 多死社会の到来で、事前に「人生の最終段階の過ごし方」を考え、それを周囲と共有しておくことが重要であると指摘。事例(別掲)1では、患者本人の意思を確認できなかったこともあり、医師としては本人の希望に沿った医療を提供したいと語った。事例2では、結果的には本人の意向に沿えたことを強調。事前に「自身が受けたい医療・ケア」を示しておくことが大切であると述べた。また、「終末期の軌道」について、「がん等」「心・肺疾患末期」「認知症・老衰等」の3つに分類し解説。いずれの場合でも、自身の意思表示ができる状況で、家族や近親者だけでなく、医療者にも伝えてもらいたいとした。

おだやかな死に満足
MBSアナウンサー古川 圭子 氏

 自身の父親が肺がんにより76歳で亡くなった際、希望する自宅で看取ったとのエピソードを交え、見解を示した。家族間では、介護力の問題から「在宅での看取りは厳しい」と判断していたものの、外泊を機に在宅療養に移行。亡くなった当日、古川氏は出張中で、後刻息を引き取ったことを家族から知らされたと語った。日常の中で自然に死が訪れ、自身が想像していた様子と異なっていたと述べ、「結果としておだやかな死を迎えられたことは、家族としても満足している」と振り返った。また、実体験から、患者本人は家族全員に同じ話をするのではなく、伝えたい内容は、続柄などによっても違うとの見方を提示。様々な場面で「気軽に話し合える機会」を持つことが重要と述べた。

ACPの活用を
大阪府医師会理事 阪本 栄 氏

 人口推移予測から、高齢化率は伸び続けると指摘。多死社会の本格化を見据え、人生の最終段階を「自分らしく」過ごすための環境について考え、尊厳ある生き方を実現することが重要と説いた。そのための一環として、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を紹介。意思決定を支援するプロセスであり、「前向きに生き方を考える」手法と位置付けた。更に、人生の最終段階では、家族自身も悩む場面が多くみられるとし、「残される家族のためにも、受けたい医療やケアについて話し合いをしてほしい」と呼びかけた。一方で、ACPは万能ではなく、適切に進めることが重要と加えた。

事例1

94歳、女性。脳梗塞で救急病院入院後、当院へ転院。入院期間8カ月。経口摂取は難しく、経管栄養を実施。だんだんと状態が悪くなり死亡。家族も覚悟はできていたが、突然の他界に、少なからず動揺が見られた。
本人の思い:認知症のため、意思確認ができない
家族の思い:自宅での介護は難しく、入院を希望

事例2

85歳、女性。膀胱がん・子宮がんなどで要介護5。入院期間2カ月。腎盂バルーン、人工肛門処置を実施。在宅医療は困難であったが、外泊中に死亡。結果として患者の意思を尊重することができ、家族も満足された。
本人の思い:最期は自宅で迎えたい
家族の思い:自宅での介護は難しく、入院を希望