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時事

明るい社会保障改革

府医ニュース

2018年10月17日 第2871号

頼みの綱はナッジとインセンティブ!?

 9月21日、経済産業省の産業構造審議会「2050経済社会構造部会」第1回の会合が開催された。この部会は、日本が今後、2050年頃にかけて大きな構造変化に直面する中、人生100年時代に合わせた持続可能な経済社会を作るための政策課題を整理するために設置された。来夏までに取りまとめを行い、政府の未来投資会議に報告する予定となっている。
 構造変化として具体的には、1.現役世代(生産年齢人口)は、7700万人(15年)から5300万人(50年)へと、2400万人減少、2.平均寿命は4歳程度延び、100歳以上の高齢者は 50万人を超える。高齢者(65歳以上)の割合は、50年に37.7%まで拡大、3.単身世帯は34.5%(15年)から39.3%(40年)にまで拡大し、最大の世帯類型に、4.7割以上の市区町村で、15年から45年にかけて人口が2割以上減少、45年には3割近くの市町村で、高齢者人口が過半数となる、5.社会保障支出(年齢関係支出)は、対GDP比で21.5%(18年)から26.5~27.3%(60年)へと5%拡大――が示されている。
 経済では、1.IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能(AI)等により、グローバルに第4次産業革命が見込まれる、2.AIやロボット等の出現により雇用のボリュームゾーンであった従来型のミドルスキルのホワイトカラーの仕事は大きく減少する可能性――などから、産業や就業の構造も大きく変化する見通しとしている。
 高齢者の就労に関しては、▽平均寿命を超える長寿の可能性(男性は87歳、女性は93歳での死亡が最も多い)▽高齢者の体力・運動能力はこの10年強で5歳若返っている▽生涯現役を望む高齢者も多いゆえ、75歳以上を支えられる側とすることで"景色が変わる"とまで表現している(65歳以上を支えられる側とした場合、17年に現役世代2.1人、65年には同1.3人で1人の高齢者を支えることになるが、75歳以上とした場合には、それぞれ5.1人、2.4人と倍以上に増える)。
 経産省が謳う「明るい社会保障改革」は、民間活力の活用や個人の努力の応援により、ダイナミックに経済社会の構造を変えていくものとされ、スマート・チョイス戦略(ナッジやインセンティブ等を活用し、個人の「賢い選択」を応援)が掲げられている。
 ナッジとは、「ひじで軽く突く」という意味で、行動経済学では、デフォルトの提案や表現方法の工夫により、自発的に望ましい選択を行いやすいよう誘導する政策手法を指す。「○○%(多い割合)の人がしています」との表現でその行動を取る比率が上がったり、カフェテリアで健康に良い食品を取りやすく配置すると、選ぶ人の割合が増えることが報告されている。ヨーロッパ諸国の臓器提供希望者の割合が、初期設定が同意か非同意かで大きく異なることも、よく例に出される。会合では有志議員による「国民年金への加入」「検診受診」「医師による予防・健康づくり」等を促すナッジの提案が紹介された。
 "抜本改革"と盛んに叫ばれた時代が、少し懐かしくなる気が、しないでもない。(学)