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時の話題

風しん再流行の兆し

府医ニュース

2018年10月17日 第2871号

感染拡大防止にワクチン接種呼びかけを

 風しんは平成6年の予防接種法一部改正以降、患者数は減少していたが、15年から徐々に流行が始まり、16年には日本各地に広がった。地域での流行は年々拡大し、25年には過去最多の患者数(1万4344人)となった。男性の罹患は女性の3倍以上であり、多くは20歳から40歳代で、職場での男性の集団発生も報告された。女性は10歳代後半から30歳代で多く、まさに妊娠出産年齢であった。その後、やや流行は落ち着いたように見えたが、現在、関東を中心に再び流行し問題となっている。
 このような風しん患者の増加に伴って懸念されるのが、「先天性風しん症候群」である。30歳代後半から50歳代の男性の抗体保有率は75%から80%と低く、風しんを発症した成人男性から妊婦への感染が危惧される。妊娠初期に風しんにかかると、胎児が風しんウイルスに感染し、難聴、心疾患、白内障、精神および身体の発育の遅れなどの障害を持つ先天性風しん症候群の児が生まれる可能性がある。16年の流行時には、先天性風しん症候群の患者が10例報告された。
 風しんの定型例では、発熱と同時に全身の発疹、リンパ節腫大を認める。しかし15%から30%の人は不顕性感染で終わることが知られている。つまり、風しんを症状のみで診断するのは困難であり、検査診断、ウイルス分離が基本となる。急性期の咽頭ぬぐい液、血液、尿から風疹ウイルス遺伝子をリアルタイム―PCR法などで検出する方法が必要である。これらは行政検査で、各地域の保健所が無料で行う。従来診療所で最もよく検査されている血清診断法は、急性期と回復期のペア血清で抗体価が陽転または有意上昇することで判断している。
 任意接種ではあるが、成人への積極的な麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)の接種が望まれる。特に、女性は非妊娠時期に1歳以上で2回のワクチンを打っておくことが大切である。生ワクチンのため、女性は接種前1カ月、接種後2カ月の避妊が必要となるが、万が一妊娠に気付かずワクチンを接種しても、先天性風しん症候群の報告は現在のところない。
 26年3月28日に発出された厚生労働省「感染予防指針」では、「早期に先天性風しん症候群の発症をなくす」「2020年度までに風しんを排除する」ことを目標に定めた。具体的には、1.風しんの定期接種(1歳、小学校就学前の2回)の接種率95%達成2.成人の予防接種の推奨(例えば企業と連携して従業員の抗体検査、接種の勧奨)3.先天性風しん症候群児への医療提供(日本医師会や関係学会との連携)――が挙げられている。
 風しんを日本から廃絶し、先天性風しん症候群をなくすためには、ワクチン接種の普及が望まれる。定期接種(1歳、就学前)では接種期限があるので、余裕を持った接種を呼びかけるとともに、成人に対する任意接種を促すことが重要である。