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ふるさと納税とPDCAサイクル

府医ニュース

2018年10月3日 第2870号

 最近、ふるさと納税を巡り地方間での寄付獲得競争の是正に総務省が動き出したという報道があった。そもそも、このふるさと納税、税収の足りないところは自治体が努力して自分でかき集めてこいという「大衆的な」思い付きともいえるイデオロギー(新自由主義)が根底にある。税の概念に競争を導入したことで、このような帰結は十分に予想できたはずだ。国家が地域を切り捨てること、そして、公共財や公共心を含む「社会的共通資本」の棄損により起き得る事象とも言えよう。医療政策と絶対に無関係な話題ではない。
 以前、私のふるさと納税批判に「固いことを言うな」「それぞれ思い入れのある地方へ納税して役立てている。何が悪いのか」というご意見をいただいた。生活が苦しいから納税を行い、それで返礼品で食べていける、そういう話も理解できる。それでも、返礼品という餌と、地方への純粋な気持ちを利用し、税そのものの制度を歪めていることに嫌悪感が拭えない。何度も書いたが、なぜ、このような帰結が予想できるのにゴーサインが出たのだろう。政治的、思想的な力学が働いたこともあるが、「やってみなければ分からない」「まずは実行、そして検証、それを繰り返せばうまくいく」というPDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)的な思考法が議員、官僚はじめエリートに浸透していることも一因ではないか。
 先日、行政が主催する地域医療の会議において、地域包括ケアにかかわる事業のレジメに堂々と「PDCAサイクル」と書かれてあった。無意識で受け入れていた出席者を眺めながら、単なる思考法に過ぎないものなのに、議論や推進の方法までPDCAと指定されていることに疑問を感じないのかと思った。そんな立派な解決法なのか?とにかく、ふるさと納税がPDCAを回しながら改善されないことを祈るばかりである。PDCAでは短期的な成果で評価してしまうという明らかな欠陥があるからだ(だから何度も回せというのだろうが)。商品開発と同じ文脈で公共政策を語られては困るのである。(真)