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医師・医療関係者のみなさまへ

時事

働き方改革と医師の労働者感覚

府医ニュース

2018年9月26日 第2869号

アイデア集め現場主導で推進を

 平成30年9月6日に行われた大阪府医師会役員と勤務医部会役員との懇談会で、今村聡・日本医師会副会長が、「医師の働き方改革の現状と日本医師会の取り組み」と題して講演された。日医では医療側の意見をまとめるため、昨年6月に「医師の働き方検討委員会」を立ち上げ、今年4月に答申を提出した。更に日医は、厚生労働省「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」をたたき台に検討を重ね、今年7月、厚労省・医師の働き方改革に関する検討会に意見書を提出した。この時の構成メンバーは、医療関連団体6名、現場医師2名、現場若手医師3名、看護師2名、有識者7名、患者代表1名、労働関係3名で、厚労省で医政局と労働局が合対峙したわけである。
 その会議の中で、「緊急的な取組」の未実施率が、1.客観的な在院時間管理方法等の導入では一般病院39.3%、大学病院51.6%、2.36協定・就業規則の自己点検では同47.7%、45.1%、3.産業保険の仕組みの活用では同49.6%、27.0%、4.女性医師等の支援では同22.2%、5.8%であったことが報告された。女性医師等の支援が進む一方、現行の労働法制に抵触する事項も含んでいるにもかかわらず、「医師の労働関係」に関する取り組みが進んでいない。「緊急的な取組」の発表からわずか数カ月しか経っていないのに、実施率を100%に上げることなど不可能であるし、それを実施すれば地域医療が立ち行かなくなるのではないか、という意見が医療界には多いと思われる。社会混乱を招く方向へ重い腰を上げる理由が乏しいため、周囲の様子をうかがっているのではないだろうか。しかし、労働局側の意見は、「4カ月経っても実施されていないのは危機感が薄い。この先、現状維持的になってしまうリスクがある」との見解で、医療現場での対応、労働基準改善の遅れが問題視された。
 これら「緊急的な取組」の結果は、勤務医師に労働者という踏み絵を急に突きつけたことにほかならない。診療所や病院の経営者は「労働者」との法的位置付けにはない。従って、今回は医師としては「働き方改革」とは無関係である。しかし、勤務医は矢面に立たされている。労働局の定義とは裏腹に、勤務医は「自分は労働者ではない」と思っている人が多いのではないか。特に中間管理職以上は、組織が大きければ大きいほど多くの部下に命令できる立場にあるし、病院経営にも参画している医師も多い。仕事をやらされているという感覚になり得ない。一方、研修医に「緊急的な取組」に関しての回答をさせたならば、内容は非現実的であったとしても、おそらく100%に近い実施があったのではないか。働き方改革が法制化されることは、罰則規定があり、それに反すると違法行為となる。とはいえ、「労働者」でなければ罰則規定も無関係であるから、取り組む必要もないわけである。マスコミを介した世論を背景に、会議のイニシアティブが労働局側に傾きつつあることがうかがえる。ただ、医師を悪者にすることは、社会にとって得策ではないので、政府は羊を追いやるように、徐々に追いつめていく戦略を取るのではないだろうか。丸裸にされる前に、主張するべきことは主張しておく必要があるが、その前提条件が「緊急的な取組」を消化することという構図と考えられる。
 我々が髪を切るとき、まず髪をとくことから始める。美容師・理容師はその後、イメージに添いながら切っていくが、髪をとかない限りセットできない。絡みついた毛からはイメージも湧かないが、とくことで思いも寄らない展開が出てくる可能性がある。働き方改革が政治主導で、突如我々を労働者として強制したという被害者意識もあるが、改革の趣旨は我々の健康管理であるから、否定すべきものではない。我々にしかできないアイデアを出して、働き方改革を我々側に引き込むことも、長期的にみれば日本にとってプラスになるのではないだろうか。(晴)