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国立大学改革の結果

府医ニュース

2018年9月5日 第2867号

 新聞によると、人口当たりの修士・博士号取得者が近年、主要国で日本だけ減ったことが、文部科学省の調査で判明した。冒頭の博士号取得者減少に対して、特に矢面に立たされているのが国立大学である。ネットで見つけた国立大学への別の議論の中で「国立大学は納税者への責務を果たせ(財務省職員)」という声は強烈であった。納税者への責務という言葉には納得できないが、国立大学が国のための大学という意味であるなら一定の理解はある。しかし、彼らの求める国のためというのは、形に見える指数で判断できるものであり国際競争力というものであろう。プライスレスな「教養」や「文化」というものは評価の対象にはない。国の考え方を知りたく、内閣府のホームページで「統合イノベーション戦略」などを見た。そこには、「『世界水準の目標』『論理的道筋』『時間軸』を示し、基礎研究から社会実装・国際展開までを『一気通貫』で実行するべく『政策を統合』」とある。新自由主義や共産主義などの合理的思想に嫌悪感を抱く私からみれば、この政策はこれらと同一のイデオロギーにしか見えない。
 「国立大学法人化は失敗だ」(山極壽一・京都大学総長)という意見は、今の国立大学をはじめとした日本の教育がこの20年における改革によって破壊されたという極めてまっとうな反論である。国からの資金を削減され、それでいて「競争が足りない」と更なる競争を強いられる中、彼らが望む「目に見える成果」が得られなければ、また「改革」が断行されてしまう。まさに、教育という社会的共通資本に、民間の論理を導入させ現場をめちゃくちゃにしているとしか思えない。この現実の直視がなければ、内閣府が今後目指す、「『世界で最もイノベーションに適した国』を実現し、各国が直面する課題の解決モデルを我が国が世界に先駆けて提示すること」など決してできはしないだろう。当然、医療に対しても同じ視点で彼らは見ている。地域包括ケアシステムを何の疑問も持たず、「推進」や「改革」と実情と乖離した「見える化」に無批判に協力するのは危険だと私は思っている。(真)