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診療報酬 甲乙物語

府医ニュース

2018年8月1日 第2864号

 本年3月、奈良県知事が会見で「地域別診療報酬」の可能性について言及した。例えるなら奈良県だけ1点9円のルールになるかもしれないというものである。早速、奈良県医師会、大阪府医師会、日本医師会が反対の意向を示したが、この地域別単価は財務省が思いついたような新しいアイデアではない。実は戦後から昭和30年代にかけて、我が府医が中心となりこの地域格差問題を解決すべく闘争を経て、現在の統一単価を勝ち取ったという歴史があるのだ。
 27年当時、「甲地」の大都市は単価11円、それ以外の「乙地」は10円となっていた。単価だけではない。点数も都市部では物品が高いということで地域格差がつけられていた。東京都は全域甲地扱いであったが、大阪府では約3分の1が乙地であったのだ。戦後復興におけるインフレにより乙地会員の経営難はいかばかりであったろう。
 府内医療格差を危惧した府医は、日医と連携し甲乙廃止と単価値上げを要望した。しかし、32年、政府は1.1点単価10円(暫定的に甲地13円50銭、乙地12円50銭)としたものの、新たに、2.点数は甲表乙表の2種類とし医療機関がいずれかを選択するという「甲乙2表案」を提示したのだ。1つの医療行為に2つの診療報酬を付与したことは、矛盾もあり問題である。これは、我が国の国民皆保険が崩壊し、米国のように民間の保険会社が独自に点数表を作り、医療機関が数パターンの診療報酬請求をしなければならなくなる未来につながる。
 その後、府医の先達による努力により36年に府内全域甲地編入、そして38年に単価も点数も全国一律となった。奈良県医の直面している問題は、過去、府医が困難に苦闘していた問題と等しい。更にこの流れは「官から民へ」や「地方にできることは地方へ」という昨今の新自由主義の潮流と一致する。小さな政府というスローガンのように国による公共財への財政面での支援責任放棄と考えざるを得ない。他県の出来事を対岸の火事とみてはいけないのだ。(真)