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医師・医療関係者のみなさまへ

中尾正俊・高井康之両副会長にインタビュー

府医ニュース

2015年6月24日 第2752号

伯井府医会長を全力でサポート
同時に府医副会長へ就任

 第300回大阪府医師会臨時代議員会(平成26年3月27日開催)において、府医定款の一部改正案が可決決定され、「副会長職は4名以内」となった。地域医療計画の策定や地域包括ケアの推進、医療・介護保険への対応などの重要案件が同時期に進行することから、副会長職の増員を図り、会務を充実させる必要が生じたためである。これを受け、2カ月後の第301回府医臨時代議員会(同5月25日)で中尾正俊理事(当時)・高井康之理事(同)が新たに府医副会長に選任・選定された――。副会長就任から1年。当時の執行部の見立て通り、医療界は目まぐるしく動いている。府医の重責が日増しに高まる今、両副会長に担当会務の執行状況や今後のビジョンを聞いた(インタビュアー=阪本栄・広報担当理事)。

住み慣れた地域で安心安全に暮らせる地域医療体制を構築(中尾)
医師会が中心となり医療界が一致団結して難局を打開する(高井)

阪本 昨年6月26日の第302回府医定例代議員会終結を経て、副会長に就任され、1年となります。理事から副会長職に就かれたわけですが、業務への取り組み方などをお聞かせください。
中尾 理事の時には地域医療や高齢者対策、大阪市医師会連合会などを主に担当していました。現在は地域医療構想策定や在宅医療の推進、認知症対策などを重点的に担当しています。
高井 私は医療保険・指導などが主担当でした。副会長就任後も主管させて頂いていますが、医療情報や治験など様々な分野も総括的に担当しています。
中尾 実際に府医を総括するのは伯井俊明会長ですが、様々な案件を広い視野で判断して会長を補佐するとともに、理事との橋渡し役も心掛けています。
阪本 先般の「大阪市特別区設置住民投票」では、理事会でも多くの意見が出されました。
高井 理事者からの様々な思いを受け止めるとともに、伯井会長の「市民の命と健康を守るために反対する」という信念に従いました。
中尾 特別区の設置は回避できましたが、にわかに「総合区」といった話も浮上しています。不透明な部分はありますが、今まで以上に行政と地区医師会の連携がスムーズにいくよう働きかけていく必要性は感じています。

主担当業務の中間報告

阪本 先程お話があったように、両副会長は数多くの分野で業務を幅広く担当されていますが、ここでは各論を伺います。まずは、地域医療提供体制構築への取り組みについてお聞かせください。
中尾 昨年6月に医療・介護総合確保推進法が公布され、「病床機能報告制度」「地域医療構想策定」などが定められました。地域に適した医療提供体制の構築へと舵が切られれば良いのですが、医療費抑制ツールとして利用される危険性も否めません。そのような動きには断固として反対しなければなりません。一方で、地域医療介護総合確保基金(新たな財政支援制度)を活用して、大阪府では26年度より「在宅医療推進事業」を実施しています。地区医師会に地域医療連携室を設置し、在宅医療コーディネータを配置した上で在宅医療の拡充を進めるという事業ですが、府医はコーディネータ研修に取り組んでいます。地域の住民が安心して暮らせるよう、在宅医療の質的・量的拡大を図りたいと考えています。26年度はこの事業を24の地区医師会に受託して頂きました。29年度には57の全地区医師会が実施できる体制を整備し、大阪府内で在宅療養を希望する患者さんに適切な在宅医療が提供できるよう、事業を推進したいと思っています。
阪本 地域医療構想策定における府医の役割をご説明ください。
中尾 大阪府では、二次医療圏ごとに地域医療構想を策定するので、行政と各ブロックの話し合いが非常に重要となります。そのためのサポートを十分に行うことが大きな役割と考えています。そして、大阪府医療審議会長を務める伯井会長の裁量の下、各医療圏に最も適した地域医療体制を構築していきたいと思います。
阪本 認知症対策についてはいかがでしょうか。
中尾 厚生労働省は、1月に認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を公表しました。基本的にはこれに即した対応になりますが、大阪府には認知症サポート医の活用を訴えたいと考えています。ただ、ボランティアでの対応には限界がありますので、報酬面も含め適切な運用が必要です。
阪本 26年度は診療報酬の改定が行われました。これについて見解をお聞かせ願えますでしょうか。
高井 今回の診療報酬改定は、診療報酬本体はプラス0.73%、薬価・材料費はマイナス0.63%、全体で0.1%のプラス改定でした。しかし、消費税率引き上げに伴う負担増への対応として1.36%の補填分が含まれるため、これを差し引くと実質的にはマイナス1.26%という改定率でした。控除対象外消費税への対応については、抜本的な解決が待たれますが、今回は薬価の引き下げ分が診療報酬本体に戻されないという、いわば医療費削減政策が実行されました。今までの歴史的経緯を無視した横暴であり、今回のようなことを二度と起こしてはならないと日本医師会にも強く働きかけています。
阪本 医療と薬剤は不可分一体であるという前提が崩されました。財務省の医療費抑制に対する姿勢の表れでしょうか。そのほか、今回の改定に込められた意図を教えてください。
高井 消費税対応分として、分かりやすい形で基本診療料に加点されたことは、一定の評価はできると思います。また、地域における病床の機能分化や地域包括ケア体制構築に向けた医療の在り方について、国の方針が示された改定と言えるでしょう。一方、経済財政諮問会議や財政制度等審議会においては、社会保障抑制策が声高に議論されています。国民の健康が担保されてこその経済発展だということを政治家には理解して頂きたいと思います。私自身、日医の社会保険診療報酬検討委員会にも委員として参画していますので、日医へ府医の意見を積極的に提言し、次回の診療報酬改定でしっかり交渉できる材料にして頂きたいと考えています。
阪本 10月から実施される医療事故調査制度についてはいかがでしょうか。
高井 あくまで医療安全を主眼とした制度として体制を整備する必要があります。決して責任追及が目的ではないことを国民に理解してもらわなければなりません。コスト面の議論も重要です。
中尾 日医は都道府県医師会に対し、医療事故調査等支援団体(支援団体)として中核的な役割を果たすよう要請しています。ですが、支援団体としての活動費用は、現在のところ補填されないようです。本来であれば、国が行うべき事業であり、予算もきちんと計上する必要があると思います。
阪本 同時期にマイナンバー制度も開始されます。
高井 情報の機密性の担保が求められます。医療情報は高度な個人情報ですので、漏洩には十分注意しなければなりません。
中尾 便利なツールになり得るという側面はありますが、利便性だけに捉われるのは非常に危険です。

府医の在り方 日医との関係

阪本 松原謙二理事が日医副会長としても活躍されています。日医との関係や府医のスタンスをお聞かせください。
中尾 松原理事は平成16年の植松治雄・日医執行部でも常任理事として活躍されており、当時の人脈なども生かしつつ、比較的スムーズに交渉に臨まれていると伺っています。我々としても全力でサポートしてまいります。現在は政権与党が圧倒的な力を持っていますので、日医も交渉面で厳しい対応を迫られることもあるかと思います。しかし、社会保障が抑制される政策には断固として反対して頂きたい。
高井 国の示す医療政策には、府医だけでは対応できません。その意味においても日医、ひいては松原理事の存在に大いに期待しています。また、ただやみくもに反対するだけではなく、「話を聞いてもらえる環境」を作ることも大事でしょう。そのためには医療界が団結する必要があり、一枚岩で日医を支えなければなりません。そしてそれは府医としての責任だと思っています。
阪本 医師会の組織強化が喫緊の課題です。
中尾 予防接種や特定健診なども含め、医師会員でなければ地域医療に参画し難い体制になりつつあります。更に今後、地区医師会と行政との連携は一層重要になっていきます。地域医療への見識を深めて頂くためにも、若い頃から医師会に入会してもらえればと思います。
高井 医師会に入会するメリットをよく聞かれます。私はその度に「ぜひとも医師会活動に関わってほしい」と答えます。医療制度を取りまとめているのは、医師の代表である医師会です。保険医として医療ができるのは医師会という存在の賜物であり、すべての医師が恩恵を受けている。この点を認識した上で、医師会活動に前向きに取り組んで頂きたい。医政活動も同様です。
阪本 来年7月の参議院比例代表選挙には、日本医師連盟推薦候補者が出馬予定です。
中尾 東京都医師会に所属する自見はなこ氏ですが、病院に勤務する女性医師です。概して勤務医会員は医政への関心が薄いと言われていますが、今回の候補者は勤務医であり、同じ環境の医師達の関心が高まればと思っています。また、年齢も若いので、長期にわたり国政で活躍して頂けるはずです。
高井 自見氏には厚生労働行政に深く関与して頂き、医療界のために尽力してほしいと願っています。そのためにも多くの票を持って国会へ送り出すことが求められます。会員の皆様にもご理解頂ければ幸いです。

会員へのメッセージ

阪本 会員へのメッセージなどをお聞かせ願えればと思います。
中尾 今後、ますます地域に応じた医療提供体制が必要になります。会員の先生方には今まで以上に地域住民のために汗をかいて頂かなければなりません。会員一人ひとりの頑張りが府医を支え、日医の支援につながっていきます。
高井 個々の会員の先生方におかれましては、意見や不満もあると思います。一方で、個人でできることは限られています。そのような時にはぜひ、医師会をご利用頂ければと思います。
阪本 最後に府医ニュースへのご要望などをお聞かせください。
中尾 府医ニュースは、非常に濃い内容で情報発信がなされていると思います。私からの「個人的な意見」ですが、理事の仕事など府医の会務内容を分かりやすく伝えて頂くコーナーがあれば、読者である会員の先生方にも「府医の役員は何をしているのか」が目に見える形でご理解頂けるのではないでしょうか。
高井 府医ニュースは主張性のある機関紙だという印象を持っています。これからも府医の意見の発信力として続けて頂ければ幸甚です。より一層、会員の先生方に読みやすいスタイルで、分かりやすく情報を伝えてほしいと思います。
阪本 医療政策や難解なキーワードには注釈を挿入するなど、読みやすさも工夫していきたいと思います。
 本日は長時間にわたり、貴重な意見をお聞かせ頂きました。両副会長、ありがとうございました。

広い視野で補佐 会務の充実図る

中尾 正俊(なかお まさとし)昭和27年12月5日生。神戸大学医学部卒。東淀川区医師会理事・同副会長を歴任。平成16年4月~20年3月、22年4月~26年6月まで府医理事を務め、同年6月より府医副会長に就任。地域医療・介護保険・高齢者対策・学校保健などを主管。62歳。
高井 康之(たかい やすゆき)昭和26年8月23日生。大阪大学医学部卒。豊中市医師会理事を経て、平成16年12月~20年3月、22年4月~26年6月まで府医理事に着任。同年6月より府医副会長に就任。医療保険・指導・医業経営などを主管。63歳。